ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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君に夢中~日本シリーズから見えた、立浪竜に必要なコト~

 セ・リーグを制したヤクルトがパ・リーグ覇者のオリックスを下した今年の日本シリーズ。6試合全てが2点差以内、うち5試合が1点差という熱戦に次ぐ熱戦は、稀に見る名シリーズとして永く語り継がれることになるだろう。

 今回、筆者は運良く第6戦のチケットを入手し、現地観戦に成功。眼前で繰り広げられたあの死闘から1週間、我らが立浪ドラゴンズの飛躍につながるヒントを考えてみた。

リバウンドメンタリティ

 両軍無得点の3回表、ヤクルトの攻撃。先頭のホセ・オスナが三塁線を破る二塁打を放つも、続く宮本丈は初球のバントを空振り。飛び出したオスナが刺殺され、先制機がしぼんだに見えた。

 しかし宮本はそこから3球続けて際どいボール球を見送り、打者有利のカウントに持ち込んだ。そして5球目をライト線へ運ぶヒット。失敗を引きずらずに結果を出す、強い気持ちを宮本から感じられた。

 これはいわゆる「リバウンドメンタリティ」と呼ばれるものだが、立浪流に言うと「負けん気」だろうか。失敗して凹むのが普通だが、ドラゴンズの選手にはぜひ「負けん気」をグラウンド上で発揮してもらいたい。

わずかな隙を見逃さない

 勝負を分けたのは、たった1つのバッテリーミスだった。同点の延長12回表、2アウトから塩見康隆がヒットで出塁。高津臣吾監督は代打にとっておきの切り札・川端慎吾を送った。

 川端が倒れたら、この日のヤクルト日本一が無くなる場面。吉田凌-伏見寅威のオリックスバッテリーに並行カウントに整えられるも、5球目を伏見が逸らし、労せず走者を得点圏へ。相手にわずかに生まれた隙を逃さず、川端は7球目をレフト前にポトリと落として、決勝点をもぎ取った。

 野球のレベルが高くなればなるほど、1つのミスが得点に結びつきやすい。落合政権下のドラゴンズは相手の綻びを見逃さずに、勝利を拾っていた。改めてそのことを思い出させてくれるシーンだった。

エースがエースたらしめる投球

 山本由伸の熱投に胸が熱くなった。周りがヤクルトファンの多い席でなかったら、多分ほろりと行っていたと思う。

 5回に先制されても、裏に追いついてもらってからは無失点ピッチングを継続。7回で100球、8回で120球を超えても、ブルペンは誰も準備をしない。8回に至っては相手クリーンアップを三者連続三振だ。ベンチの心意気にエースが応え、球場中が背番号18に引き込まれていった。これを快適なドームでなく、気温5度前後の屋外でやっているのだから脱帽である。

 負けたら終わりの一戦で見せたのは、まさに「エース」の背中。大野雄大や柳裕也が大舞台で見せてほしいことを、山本由伸は体現してくれた。

攻守で未知数のプロスペクト

 オリックスではもうひとり、20歳のショート・紅林弘太郎から目が離せなかった。

 絶好調と思われた高梨裕稔から二塁打を放ったと思ったら、ダメなときはからっきし。守ってはポロッとやるときもあれば、驚異的なカバー範囲と強肩でアウトを取る。若さゆえの危うさといえばそこまでだが、中嶋聡監督はシーズン中から紅林を使い続けたからこそ、日本シリーズでもいつも通りのプレーを見せられたのだろう。これは第5戦に活躍した太田椋もそうだ。

 ドラゴンズにも根尾昂や石川昂弥など、「その気」になれば使い続ける価値のありそうな若手がたくさんいる。計算できる選手はもちろん必要だが、未知数のプロスペクトをチーム作りのスパイスにするのはありだと思う。

野球好きで埋まったスタジアム

 自分の体験してきたことを照らし合わせると、日本シリーズはギスギスした雰囲気の中で行われるものだと思っていた。

 だが、この日のほっともっとフィールド神戸からは、そんな雰囲気を微塵も感じなかった。オリックス側からの悲壮感もなかった。負けたら終わりなのに不思議なものだ。

 試合が進むにつれてその秘密が分かった気がした。このスタジアムには野球好きしかいない――。

 1つのストライク、1つのプレーに拍手やどよめきが常に起こる。一方で固唾を呑んで見守る瞬間もある。打った時は喜び、打たれた時は悔しがる。そして、終わった後は両チームのファンがともに称える。そんな空間に5時間以上居続けた。とにかく寒かったが、なんとも言えない幸福感で満たされたままスタジアムを後にした。

 来季のバンテリンドームもこんな空気で試合できるといいよな、と思いつつ、そんなに広い心を持って野球を観られるだろうか……? ちょっぴり不安になるドラゴンズファン(筆者)だった。【ikki】