ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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慎重かつ大胆に、大事な大事な……

●3-7広島(24回戦)

「なんと! 今回! ついに! 松葉貴大が! 月間MVPに!」

 羽鳥慎一アナウンサーの名台詞で歓喜の瞬間を待ち望んでいたが、淡い期待は無情にも裏切られた。9月は5試合に登板して4勝、防御率は0.95。成績が伸び悩んだ8月までとは一転、快進撃を見せていた左腕にも何らかの勲章があってもよかったと思わずにはいられない。

大胆不敵

 9月の好調を維持したまま10月に突入したかったものの、現実は甘くなかった。スコアボードにはいきなり「3」。主砲・鈴木誠也不在でも広島打線は容赦なく襲い掛かった。しかし2回以降何事もなくゼロを重ねるあたりは、流石ローテーション投手。ストライクゾーンを目一杯使い、ストレートとスライダー、チェンジアップを丁寧に投げ分けた。

 何より圧巻だったのは投球のテンポだ。2回から5回までに対戦した12人中10人に対して、3球以内で2ストライクを奪っている。加えて、捕手から返球されてから次の投球までに移る時間が短いが故、常に自分自身の間合いで勝負できていた。

 「ストライク先行」。投手として身につけるべき嗜みは思いのほか難しい。150キロ超えの剛腕であっても、作法を習得できず表舞台から姿を消した者は数知れず。一方、松葉のストレートは140キロ前後でも強力投手陣の一角に食い込んでいる。

 しかも所謂速球派ではない投手で、ストライクゾーンで勝負することを警戒するあまり却ってボールカウントを悪くする投手を多数見てきた。つまり球速の有無にかかわらず、ストライクゾーンに投じないことには打者と勝負することすらできないのだ。

急がば回れ

 大胆な投球する一方で、決して投球内容がガサツにならないのも松葉の特徴でもある。注目したのは相手の先発投手・九里亜蓮と対峙した2打席だ。2回表の第1打席、5回表の第2打席はいずれも1死走者なしの場面。加えて、九里が今シーズン放った安打は42打席でわずかに1(10月5日終了時点)。同じ広島の森下暢仁みたくセンスあふれる打撃を披露するわけではない。ところが、9月の月間MVP候補は決して “舐めた” 投球をしなかった。

 いずれの打席も初球にストレートでカウントを稼ぎ、変化球で打ち取るパターン。異なるのは勝負球。最初の打席ではスライダーを内角に投げてセカンドゴロ。次の打席では外角低めに3球チェンジアップを続け、空振り三振を奪った。

 打席に投手が入ると、どうしても楽に打ち取ろうとする投手は少なくない。同時に、投手相手に貴重なエネルギーを割きたくないのも事実である。だが、松葉のような投手が抜き気味のストレートを投げると、命取りになりかねない。だからこそ、万全を期した配球で打者を料理し、ゲームメイクしていたのだろう。

 今シーズン現地観戦した試合で、とある左投手が投手相手にストレートのみで打ち取ろうとしたところ球数を要してしまい、その投手のMAXに近い球速帯で抑え込もうとした場面があった。

 本日の松葉のような投球ができれば、その投手が “独り相撲” をすることはなかったはず。にもかかわらず、投手としての闘争本能と力で制圧する誘惑に負けてしまう者は後を絶たない。だからこそ、軽率なことをしない彼のような投手は尊いのだ。

 6回に力尽きてしまったものの、プロ9年目を迎えた左腕は正に今が旬。同年代の選手がユニフォームを脱ぎ始める中、インテリジェンス溢れる投手として弱肉強食の世界を生き抜いてくれるはずだ。

(k-yad)