ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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チャイルド・プレイ

●0-3阪神(22回戦)

 遅ればせながら山井大介の引退に触れたいと思う。

 廃部した河合楽器から特例でプロ入りしたのが20年前。ドラフト6巡ながら便利屋のようなポジションで信頼を重ね、一年目から31登板とチームに貢献した。

 その名が知れ渡ったのは2004年。優勝へ向けてひた走る落合ドラゴンズは、ローテの谷間となった9月の広島戦の先発に山井を抜擢。長峰昌司とどちらを投げさせるか悩んだ森繁和コーチが、ベンチ裏で二人にじゃんけんをさせて、チョキを出した山井がその座を勝ち取ったという裏話が話題になった。

 この登板で山井は広島をわずか2安打に抑え、719日ぶりの勝利をプロ初完封で飾った。ちなみに荒木雅博と井端弘和の「アライバ・コンビ」の代名詞であるスイッチトスが初めて公式戦で成功したのもこの試合である。

 ドーム球場にはそぐわないサングラス姿、そして生き物のようにグニャリと曲がるスライダーを武器に山井は一躍して救世主となり、日本シリーズでもカブレラ、和田一浩らを擁する西武打線から白星を挙げた。

 山井と言うと2007年の “完全試合未遂” や、2014年の最多勝獲得がクローズアップされがちだが、個人的にはこのブレーク元年の活躍が強く印象に残っている。ハイライトが幾つもあるのは、それだけ息の長い投手だったということだ。

 たくさん故障もしたが、工夫を重ねてそのたび乗り越えてきた。第二の人生はきっといい指導者になるに違いない。秋からは頼むよ、山井コーチ。

イニングごとに豹変する掴みどころのなさ

 本日の先発はジャリエル・ロドリゲス 。映画『チャイルド・プレイ』に登場する殺人人形に風貌が似ていることから、母国では「チャッキー」のあだ名で親しまれている(恐れられている?)そうだ。私はこのカリビアンに、どこか往年の山井っぽさを重ね合わせてしまう。

 どこが? と言うと、投げてみないと調子が分からないギャンブル的な投手であるという点だ。調子のいい日は打たれる気配すら無いような見事な投球を見せる反面、悪い日は制球もままならずあっさりとKOを食らう。多重人格のような二面性は山井の魅力でもあったが、ジャリエルだって浮き沈みの激しさでは負けていない。

 後半戦は一応ローテを守っているものの、5回を投げ切るのがやっとの不安定な内容が続いていた。ところが前回9月25日のヤクルト戦(神宮)では人が変わったように冴え渡り、8回途中まで無安打無得点、あわや快挙成るかという抜群の投球をみせたのだった。

 あれから一週間。コインの表裏のように、どちらのジャリエルが出るかは神のみぞ知る。だがプレイボールがかかって5分と経たずに、今日は “ダメな日” だと察することになった。

 いきなり無死一、三塁のピンチを背負い、迎えるは昨日のヒーロー、マルテ。フルカウントからの8球目、「打ってください」とばかりに甘く浮いたスライダーは、グシャッという衝撃音を残すとあっという間にスタンドへと消えていった。

 立ち上がりに1死も取れずに3失点。終盤までヒット一本すら許さなかった先週の好投が嘘のような背信投球に、ついついぼやかずにはいられなかった。

 一体どちらが本当のジャリエルなのだ、と。

 

 ただ、これで簡単に終わらないのがジャリエルの不思議なところでもある。その後はすっかり立ち直り、終わってみれば7回途中5安打3失点でまさかのクオリティ・スタートに成功。試合単位どころか、イニング単位で豹変する掴みどころのなさは、ある意味で山井以上に “投げてみなければ分からない投手” と言えよう。

 次回登板は、敵が絶望を感じるような、チャッキーの名に恥じぬ投球を初回から期待したい。ちなみに『チャイルド・プレイ』は「3」以降はただのコメディです。

(木俣はようやっとる)