ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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二重人格

△0-0ヤクルト(20回戦)

 この時期の神宮球場は乙なものだ。夏の日差しが和らぎ、週末は秋晴れの下、東京六大学野球秋季リーグ戦が開催されている。本日のようなプロ併用日は、大学野球の第二試合終了とともに球場の外が再び騒がしくなる。

 段々と早まる夕暮れ時、日中とは別の表情を見せ始める “学生野球のメッカ” には唯一無二の趣を感じるものだ。

ミッションインポッシブル?

「8番・捕手 桂依央利」。

 首脳陣はここ2試合ノックアウトとなっていたジャリエル・ロドリゲスの女房役を代えてきた。正捕手・木下拓哉でもなく、同郷のアリエル・マルティネスでもない。敢えて背番号68を起用したのは、これまでとは異なるゲームメイクを期待したからであろう。

 「異なるゲームメイク」とは、すなわち序盤の乗り切り方と捉えても良い。今シーズン、背信の投球が続く右腕は立ち上がりに課題がある。制球が定まらない時もあれば、一発長打に沈むこともある。

 しかも本日は神宮球場が舞台。本拠地・バンテリンドームとは異なり、ホームランが出やすい球場だ。だからといって、相手打者を警戒し過ぎてストライクゾーンで勝負できなければ走者を溜め、リーグ屈指の陣容を誇るヤクルト打線の餌食になってしまう。並みの捕手なら所謂「ムリゲー」だ。だが桂はそうならなかった。

新たな味

 塩見泰隆から始まる強力な上位打線を無失点に抑え、ジャリエルの投球は軌道に乗った。荒れ球なのはいつものこと。だが、抑えたい気持ちが先行し過ぎて我を見失う場面は皆無だった。何と8回1死までノーヒットピッチング。先発投手としての役割を十二分に果たした。

 安定した投球ができたのは、1回裏の先頭打者・塩見を見逃し三振に打ち取ったことに尽きる。好調をキープする切り込み隊長に対しする執拗な内角攻めは、この試合の伏線となった。決め球となった6球目のスライダー以外は全てストレート。わずか1打席のみを切り取るといつもの投球と変わらない。

 しかしながら第2打席以降の攻め方は、第1打席とは一転外角低めにストレートと変化球を集めた。しかも第2打席は変化球、第3打席はストレートを軸に配球のパターンを変える工夫も見せている。結果は空振り三振とショートゴロ。一本調子どころか、今までにないジャリエルをマウンド上で表現していた。

 最初の餌撒きがあったからこそ、ヤクルトの各打者が投球に戸惑っていたのはいうまでもない。山田哲人も村上宗隆にも内角の残像は意識づけができていたと感じた。

 前回の登板は先頭打者本塁打、その前の試合は味方の失策で早々にリズムを狂わされていただけに、一つの三振が投球の精神安定剤となったのは間違いない。降板時に観客からの拍手に帽子を取って応える若き助っ人の表情は充実感にあふれていた。

 胸を張ってマウンドを降りたのはいつ以来だろうか。一世一代の投球が実現できたのも、全ては新たな女房役との共同作業があってのこと。実のところ、ジャリエルの素顔を知っていたのは桂だけだったのかもしれない。側室から正室へ。その日が訪れるのはそう遠くない。

(k-yad)