ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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俊足レガシー

○2-1阪神(19回戦)

 竜の4番・ビシエドが球団史にその名を刻んだ。初回2死一塁の第1打席に青柳晃洋から適時二塁打を放ち、これが球団外国人安打数記録のタイに並ぶ通算765安打目となった。これまでトップに君臨していたアロンゾ・パウエルといえば1994〜96年に3シーズン連続で首位打者に輝いた球史に残るヒットマンだ。そのパウエルの眼前で達成した記念すべき一打は、低い弾道で右中間を襲うビシエドらしい打球だった。

 来日6年目、積み重ねた765本のヒットは、誰よりも名古屋を愛した助っ人の努力の航跡に他ならない。試合後におこなわれたパウエルコーチを伴ってのツーショット撮影は古参ファン垂涎のシーンであり、また “中日ドラゴンズ歴史研究家” を名乗る身としては非常に感極まるものがあった。

鋭い打球をタイムリーにした高松の俊足

 球団記録に並ぶ一打は、大型連敗中のチームにとっても大きな一本となった。なにしろ5連勝を吐き出す5連敗とあってドラゴンズ界隈には重苦しいムードが立ち込めていた。何を隠そう私も、昨夜はブログの執筆メンバー達と夜を徹してドラゴンズの未来について論戦を繰り広げ、深夜のハイテンションもあいまって罵詈雑言が飛び交う一幕もあった。

 自力CSの可能性も消滅し、実質的に「終わり」を迎えつつある今シーズン。全国2,000万人とも3,000万人とも言われるドラゴンズファンの中には(ごめん、盛った)、同じようにフラストレーションを抱える同志も数え切れないほどおられる事だろう。

 そんなダウナー気分を晴らしてくれるようなビシエドの鋭い打球、ましてやそれが決勝点になったのだから久々に気分もいい。ただ見逃してならないのは、右中間 “突破” とまでは言えないあの当たりで一気にホームを陥れたランナー・高松渡の驚くべき俊足である。

 打球が二塁手の頭上スレスレを超えた時点で、まだランナーは一、二塁間のハーフウェー手前にいたのだ。そこから速い球足でフェンス手前へ達した打球を中堅手が処理するまでの3秒半で、あっという間に二塁を回り、三塁キャンバスに到達。カットマンに返球が渡った頃には悠々ホームインという、目にも止まらぬスピードでの長躯生還となった。

 走者が走者なら三塁ストップでもおかしくない打球。それであれだけ余裕をもって生還できるのだから、なるほど与田監督が使いたくなるのも納得の俊足といったところか。

与田監督の「レガシー」

 巷では与田監督の若手を積極起用しない姿勢を糾弾する声が日に日に高まっているが、そんな中でも開幕から一貫して一軍帯同を続ける唯一の若手野手こそが高松その人である。とはいえ打率.236、2打点という成績は決して褒められたものではなく、守備面の不安も尽きない。

 同期の伊藤康祐は出場機会に恵まれず、石垣雅海や岡林勇希はなかなか昇格のチャンスをもらえない。色々と課題はあるのだろうが、それを言ったら高松も課題だらけでは? とつい勘繰ってしまうが、それはそれ。ともかく高松はたびたびスタメンにも起用されるなど、今季与田監督がもっとも目をかけた若手野手であるのは間違いない。そして少なくとも自慢の脚力では一定の貢献を果たしたといえよう。

 総理大臣や大統領は、在任中に有形無形の功績、いわゆる「レガシー」を残そうと躍起になるものだ。去就が不透明な与田監督がこのまま今季限りで退任となれば、この3年間が後世でどのように評価されるかは高松、根尾といった若手の活躍次第ということになるだろう。野手を誰も育てられなかった監督と言われてしまうのか、あるいは先見の明に長けた将と評されるのか。「レガシー」筆頭でもある高松の動向に、来季も注視したいと思う。

(木俣はようやっとる)