●0-6DeNA(20回戦)
まるで昨日の悪夢を見ているかのような試合内容。2試合連続で桑原将志に先頭打者ホームランを浴び、その後も失点を重ねて序盤で大勢が決まってしまった。
先発・小笠原慎之介はストレートも変化球もからっきし。立ち上がりから苦しむ左腕に対して、DeNA打線は容赦なく “マシンガン” を連射した。
「栄光に向かって走る~♪」の陰で
今シーズン途中、ロッテに移籍した加藤匠馬が新天地で居場所を掴んでいる。昨日は3年目左腕・小島和哉の完封をアシスト。本日は4投手の継投によるシャットアウトゲームを演出した。
パ・リーグ首位のチームで、ここ最近は主戦捕手として存在感を増している。名古屋で出番を失い、幕張に活躍の場を移した “バズーカ” は痺れる戦いを味わっている最中だ。
その加藤から、昨年ポジションを奪取したのが木下拓哉だ。レギュラー元年には、大野雄大とともに最優秀バッテリー賞を受賞。一躍セ・リーグを代表する捕手に名乗りを上げた。
打撃、フレーミング、スローイングいずれも高いレベルを誇る竜の正捕手は今シーズン、リーグ最高の盗塁阻止率.426を記録(9月19日終了時点)。打撃においても二桁本塁打を放ち、打線を形成するうえで欠かせない戦力になっている。ところが、チームの成績は伴ってきていないのが現実だ。皮肉なことに背番号35の主戦場は、Bクラス争いの試合に甘んじている。
発想の転換
「常勝チームに名捕手あり」
プロ野球界にはこのような格言がある。古くはV9時代の巨人では森昌彦、1980年代から続いた西武王朝では伊東勤がホームベースに君臨していた。
平成に入ると、古田敦也擁する野村ヤクルトや、谷繁元信を獲得した2000年代の中日が格言に当てはまる。その一方で次のような意見もある。
「日本シリーズが捕手を育てる」
こちらも腑に落ちる考えだ。先述の面々は修羅場を潜り抜けたからこそ、レジェンドとなった。近年だと、甲斐拓也が日本シリーズで育った代表だ。
2018年に“甲斐キャノン” で名捕手の仲間入りを果たし、現役捕手では誰よりも多く大舞台を経験している。
これらを木下拓に当てはめてみるとどうだろうか。ここ2年の実績を踏まえると、名捕手の階段を上り始めているのは間違いない。ところが、更に高い頂を目指すためには欠かせない「常勝チーム」も「日本シリーズ」も手の届くところにないのが現実だ。
低迷続くドラゴンズにとっては実に耳の痛い話。だが、このまま黙って現状に甘んじるわけにはいかない。ならばとっておきの武器をより前面に出して戦っていくのも一つの手。本日は8番だった打順を繰り上げても良いはずだ。
今シーズン任された打順はいずれも6番以下。打線の顔ぶれを見渡す限り、5番以上を打っても恥ずかしくない打者である。捕手というポジション柄、打撃面の負担を軽減したいのは理解できる。しかしながら、木下ほどの打者が8番にいてもチームにとっては宝の持ち腐れになりかねない。
最高の結末へ
「缶詰が発明されたのは1810年なんですってよ。で、缶切りが発明されたのが1858年。おかしいでしょ?」
ドラマ『最高の離婚』にて、今は亡き名優・八千草薫さんが笑みを浮かべながら仰っていた台詞だ。ドラゴンズに置き換えると、このような形になるに違いない。
「名捕手が登場したのは2020年なんですってよ。で、常勝チームになったのが20XX年。おかしいでしょ?」
ちなみに八千草さんの台詞には続きがある。
「でも、大事なものがあとから遅れてくることもあるのよ。愛情だって、生活だって」
チームにとって大事なものとは何だろうか。勝利、優勝、日本一……。リーグ屈指の捕手がビールかけできないまま引退するのはあまりにも寂しい。
だからこそ、“勝利の味を知る” 、球史に残る捕手として名を刻んでほしい。今のままでは勿体ない。
(k-yad)
【参考】
坂元裕二『脚本家 坂元裕二』ギャンビット(2018)