ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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鯉ノチカラ

●5-12広島(20回戦)

 実に便利な時代になった。動画配信サービスが充実したことによって、見逃した番組も往年の名作ドラマも容易く視聴できる。最近は『恋ノチカラ』をお供に帰りの電車に揺られる日々を過ごしている。初めて味わう作品ではないが、主演の深津絵里と堤真一のキャラクターは何度見ても魅力的だ。大手広告代理店から独立したクリエイター貫井功太郎(堤)が、人違いで本宮籐子(深津)を雇ってしまうことから始まる物語はいつの時代も眩しく映る。

隣の芝は青く見える

 フィクションであるドラマとは異なり、ドラゴンズは厳しい現実を突きつけられている。本日の敗戦で同率最下位に転落。火曜日からの3連戦で光っていたのは、成長著しい広島の若手野手たちだった。

 スタメンが板についてきた小園海斗は勿論、林晃汰が連夜の猛打賞。そして何といっても坂倉将吾だ。高卒5年目の期待の星は遂に本格化。7日にはサヨナラホームランを放つとともに、規定打席に到達。一躍首位打者争いの先頭に躍り出た。この日もマルチ安打を放ち、中心選手の風格を漂わせつつある。

 対するドラゴンズはどうだろうか?プロ初安打を放った土田龍空を筆頭に一軍に帯同中の若手野手はいるものの、スタメン奪取に成功した選手はいない。

相応しい立ち位置

 実に対照的な両チームには共通点がある。それは広島なら鈴木誠也、ドラゴンズならダヤン・ビシエドと絶対的主砲を擁している点だ。信頼できる4番打者を抱える反面、両雄の存在が大きくなりすぎるのも両者にとって悩みの種だった。

 必然的に求められるのは脇を固める打者の擁立だ。その候補になるのが広島においては先述の面々になってくる。彼らの活躍に比例するかのように鈴木が「神ってる」以上の働きを見せているのは決して偶然ではない。

 一方のドラゴンズは経験豊富な大島洋平に3番を任せることで、得点力不足の解消を目指した。大島自身9月は好調で、昨日の試合を除く全試合で安打を放ち、打率.333、出塁率は.429をマークしている。しかしクリーンアップの一角を担う打者としては長打力に物足りなさがある。加えて9月の打点はわずかに1。1700以上の安打を積み上げた打撃スタイルに注文を付けることはできない。ただ、現在の打順が背番号8を生かすための場所かと問われたら、首をかしげざるを得ない。

 初回、丹念にストライクゾーンの四隅に投げ続けた九里亜蓮からもぎ取った四球は、根っからのチャンスメーカーである証だ。ところが、走者を置いた場面で迎えた第2、第3打席では得点に絡むことができなかった。結論から申し上げると、「3番・大島」だけではビシエドの大爆発は呼び込めないのだ。

それでもドラゴンズの野球は続く

 「終わってないわよ、まだ始まってもいないじゃない!」

 『恋ノチカラ』には、信頼する取引先に約束を反故にされ、自暴自棄になる貫井に対して籐子が喝を入れる名シーンがある。

 ドラゴンズもそう。2000年代中盤から2010年代初頭の黄金時代以降、新しい時代はまだ始まっていない。昇龍復活のキャッチフレーズが終わる日が来るのはいつになるのだろうか。

 しかしながら、広島は新しいサイクルに突入しようとしている。「タナキクマル」で25年ぶりのリーグ優勝を果たした2016年から5年。黄金トリオは解散し、チームリーダーだった新井貴浩も既に引退している。現状が続くようだとナゴヤ球場で汗水流している面々が台頭する頃には、傍にいたはずの赤ヘル軍団に置いてけぼりにされかねない。

 ドラゴンズにもプロスペクトが増え、一見明るい未来が待っているように思える。だが、他球団はより速く進化している。ライバル球団を「叩き上げの選手が台頭しやすい土壌」の一言で片づけるのは簡単だ。「こんなはずでは……」と悔いてからでは最早手遅れ。何をするにしろ、球団の覚悟が如何なるものか見守りたい。何ならオフに鈴木誠也の獲得に乗り出したって、なんら問題ない。(k-yad)