ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

自分で考えて動く

○4-1広島(19回戦)

「ぼくはなにも言うことがない。頭の中が真っ白になったというか、今のこの状態ではなにか書くとかしゃべれというのは酷というものだ。きょうは勘弁してほしい。こういう負け方はぼくも初めてなんだから。いったいなにが起きたんだ」

 25年前の1996年6月27日にも、ドラゴンズは4点リードの9回に一挙5点を失って逆転負けを喫していた。奇しくも昨夜と同じ広島戦。違うのは、このときはサヨナラ負けでは無かったことだ。上の嘆きのようなコメントは、星野仙一監督が試合後に自身のホームページ「HOSHINO★EXPRESS」に投稿した一文である。ちなみにこの試合の最後を締めたのは何を隠そう現広島監督・佐々岡真司だったのだが、おそらく本人は覚えてはいないだろう。

 星野ほどの大物でも「頭の中が真っ白」になるような滅多にない大逆転負け。ただ近年のドラゴンズにとってはそこまでレアな負け方とも言えないのが正直なところ。かの有名な「6x」をはじめとし、2,3年前には “お家芸” と呼べるほど終盤の逆転に苦しんだ時期もあった。

 ようやく安定したのはライデル・マルティネスがクローザーに定着した昨年7月以降のこと。以来、9回はほとんど波風立つことなく穏やかにゲームセットを迎えることができるようになった。昨夜も4点差あり、むしろライデル起用は勿体ないと見る向きもあった。ところがあれよあれよのサヨナラ負け。

 与田監督は「こういうこともたまにある」と絶対的な信頼を置く守護神をフォローしたが、内心では星野と同じく「いったい何が起きたんだ」と、目眩がしそうな気分だったのではなかろうか。

敗色濃厚だった序盤戦

 悪夢の敗北から一夜明け、大事なのは今日の試合だ。ズルズルと嫌なムードを引きずるのか。あるいは切り替えて戦えるのか。9連戦、10連戦と続く過酷な日程を乗り切る上で、今日の持つ意味はとても大きかったと思う。

 しかし試合は初回から早くも劣勢ムードが立ちこめていた。せっかく出塁した渡辺勝、大島洋平がことごとく盗塁を失敗し、結果的に3人で攻撃終了。意気込みが空回りしたような拙攻で、ローテに定着した2年目左腕・玉村昇悟を乗せてしまう。すると2回裏には鈴木誠也の5試合連発となる先制ホームランが飛び出し、この時点で敗色濃厚となっていた。

 流れが変わったのは5回だ。まずは表の攻撃、2死一塁から木下拓哉のタイムリーでなんとか同点に追いつくと、その裏には1死一、二塁のピンチを背負うも二塁ランナーの菊池涼介が飛び出しているのを木下が見逃さず、2-6-5とわたってかろうじてタッチアウト。中盤イニングが課題の先発・松葉貴大を助けるプレーとなった。

「自分で考えて動く」

 スコア上では単なる走塁ミスかも知れないが、ここで見せた菊池の曲芸チックなヘッドスライディングには目を見張るものがあった。手から三塁に滑り込んだがタイミングは完全なアウト。ホーム寄りにいる高橋周平はやや高い位置ながらボールをグラブに収めており、あとは滑り込んでくる菊池の動きに合わせてグラブを下ろすだけ。ところが高橋が左手を狙ってタッチしてくるのを察知するや菊池は咄嗟に左腕を後ろに引くという忍者顔負けの瞬発力で空タッチを誘ったのだ。

 右手がベースに触れたのが先か、かろうじてグラブが胴体に触れたのが先か。確たる証拠が無かったためリクエストも判定覆らずアウトとなったが、ただじゃ転びやしまいとギリギリまで細工を怠らない菊池のクレバーさは、さすがは黄金期を支えた選手だと唸らされるものがあった。

 サイン通りに動くのも大事なことだが、その先の選手になるには「自分で考えて動く」ことが求められる。その点、6回表に渡辺が見せたお手本のようなドラッグバントはまさしく首脳陣の期待を上回るパフォーマンスだったと言えるのではないだろうか。セーフティバントはサインが出たからといって簡単に決められる代物ではない。守備位置、野手の動き、バッテリーの警戒心、配球などをよく洞察した上で始めて成功するものだ。

 苦手のサウスポーからプロ初の猛打賞を記録し、昨夜の悪夢を払拭する快勝に貢献した。生き残るために毎日必死で考え、プレーする渡辺の存在感がここにきてグンと増してきた。

(木俣はようやっとる)