ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

黄金魂

○2-0DeNA(18回戦)

 先月3日に亡くなった木下雄介さんの追悼試合として開催された今日のゲーム。現役選手の訃報というあまりにも悲しいニュースから一ヶ月。未だに気持ちの整理が付かない中でおこなわれたセレモニーには故人のご家族も出席されていた。大型ビジョンに映し出されたありし日の木下さんの勇姿に人目もはばからず号泣する選手達。セレモニーの終盤には、二人の幼いお子さんによる見事なセレモニアルピッチも披露された。

 その後木下さんの登場曲である『黄金魂』が流れる中、チームメイトにハイタッチで迎えられる「98」を付けた小さな背中を見ていたら、いつまでも泣いてちゃいかんなとようやく前向きな気持ちになることができた。

 くよくよするのは今日で一区切り付けて、これからは「木下雄介」という選手の勇姿をポジティブに語り継いでいきたい。それが私にできるせめてもの御返しだと思う。ありがとう、そしてさようなら。心が折れそうになる大怪我にも真っ向から立ち向かったその勇姿を、永久に忘れる事はないだろう。

めずらしい福留のガッツポーズ

 監督、コーチ、選手が背番号「98」のユニフォームに喪章を付けて臨んだこの試合。再三にわたるピンチを切り抜けながらどうにか0-0のままこぎつけた8回裏。我慢比べに決着をつけたのは大ベテランのバットだった。

 2死二塁。この日最後かもしれないチャンスで打席には代打・福留孝介。9試合ぶりにベンチから試合を見守った44歳が、ここしかないという場面で最前線に送り込まれた。ランナーには韋駄天・高松渡が投入されており、シングル一本で得点が期待できる状況だ。その初球、エスコバーの投じた155キロの内角球が福留の膝下を襲った。咄嗟に足を引っ込めてなんとか避けたが、地面に突っ伏した福留の表情はあきらかに怒りに満ちていた。

 ただ、分別ある大人は感情を相手に向けるような事はしない。普段なら分からないが、この日は木下さんのご家族、とくに小さな子供達も観戦している特別な試合だ。大ベテランは闘志を内に秘めたまま、静かにバットを構え直した。ファウルの後の3球目。真ん中低めのツーシームを鋭いスイングで捉えると、打球は前進守備を敷いていたセンターの遥か頭上を越え、フェンスまで到達。待望の先取点はドラゴンズに入った。

 驚いたのは次の瞬間だった。二塁を陥れた福留が、激しく両手をバン! と叩き、誇らしげに拳を突き上げたのだ。常に冷静沈着、顔色ひとつ変えず仕事をこなす男がめずらしく見せた感情の昂り。危険な内角攻めをしたバッテリーへの怒りもあったのだろう。しかしそれだけではなく、そのガッツポーズはどこか「やったぞ!」とベンチの壁に掲げられた98番のユニフォームに向かって誇示したようにも見えた。

バットで答えを出し続けるプロ中のプロ

 お立ち台で福留は「なんとしても今日は勝って、木下にいい報告をしたいという思いでやりました」と多くは語らなかったが、たった一度の打席で本当に決めてしまう勝負強さには恐れ入る。あらためて確認するが、44歳である。世の同年代が四十肩や長引く筋肉痛に苦しむ中で、150キロ台のスピードボールに難なく対応できる超人っぷり。もちろん一般人なんぞと比べるのが間違っているのだが、なんならドラゴンズの中でも未だにここぞの場面では一番頼りになるから凄まじい。

 かつては一匹狼のイメージが強かったが、今は後輩への指導も惜しまない。18歳の土田龍空も “門下生” の一人だ。去年の12月、福留獲得のニュースが流れた際には反対の声も多く聞こえてきたが、今となっては福留がいなかったらと思うとゾッとする。

 あくまで言葉ではなくバットで答えを出し続けるプロ中のプロ。福留なりの “黄金魂” を垣間見た、そんな今日のガッツポーズだった。

(木俣はようやっとる)