ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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舞洲から20分

○8-5阪神(15回戦)

 仲間内で昔の日本シリーズの話題になると、決まって出てくる名前がある。「河野亮」ーー1999年の日本シリーズをリアルタイムで知らない人はピンと来なくても当たり前だ。骨折でシリーズに出場できなくなった山﨑武司の穴埋めを期待され、「秘密兵器」と呼ばれた男。それが河野だった。

 wikipediaには「『中日の秘密兵器』と一部スポーツ紙が取り上げたこともあった」と書かれているが、何を隠そうこの “一部スポーツ紙” とは超一流クオリティペーパー・中日スポーツのことである。レギュラーシーズンで3試合しか出場機会のなかった河野を一面でデカデカと「秘密兵器」と謳ったものだから、やけにインパクトが強くて未だに語り草になっているというわけだ。

 しかし蓋を開けてみれば河野は山﨑の代役どころか出場登録からも漏れ、オフにはトレードでドラゴンズを去ることになった。秘密兵器は秘密のまま終わったのだった。

石垣昇格ならず、天敵攻略に抜擢された売り出し中の二人

 さて今のドラゴンズで「秘密兵器」の呼び名にふさわしい選手といえば、みんな大好き石垣雅海を置いて他にはいないだろう。二軍戦で直近4試合4ホーマーと猛威を振るう打棒は、歴史的貧打にあえぐ竜打線の救世主になることを期待されている。ところが今日付での昇格は見送られ、石垣はそのまま舞洲遠征に帯同。昼間のオリックス戦では3打数1安打1四球2三振と何とも言えない結果に終わり、「昇格試験」の一発合格とはならなかった。

 チーム屈指のパワーの持ち主をすぐにでも上げて欲しかったのは、今夜の対戦投手が青柳晃洋だったのも大きい。数年来の天敵には今季も対戦防御率0.89(20回1/3)と手を焼いており、若い石垣の一撃でもってなんとか重い扉をこじ開けて欲しかったのだ。ところが石垣は一軍に呼ばれずじまい。

 代わり映えのないメンバーでは、今までと同じように変則アンダースローの餌食になるだけだ。そこで首脳陣がスタメンに抜擢したのが高松渡、渡辺勝の売り出し中の二人だった。

 高松の対青柳は打率.429(7-3)と分母は少ないながら相性による起用かと思われる。一方の渡辺は2019年に1打席対戦があるだけで、おそらく青柳は対戦自体を覚えていないのではないか。何かを変えようという首脳陣の意図が伝わってくる起用だ。結果的にこの青柳からビッグイニングを作り、なおも追いすがる阪神を再び突き放した今夜のドラゴンズ。その中で光ったのが、この二人の渋い働きだった。

取れるときに取れたマサルさんの一打

 まずは3回表、無死から出たランナーを高松がきっちり2球で送り、そこから連打が飛び出して一挙5得点。締めを飾ったのは7番渡辺の2点タイムリーだった。1死二、三塁ながら下位打線であることを考えれば、渡辺がダメを押した意味はとてつもなく重かった。その後あっという間に同点に追い付かれたのは誤算だったが、取れるときに取っておいたからこそ「同点に留まった」とも言える。いつもあと一押しが足りずにヤキモキするだけに、この一打で主導権を握れたのが大きかった。

 追いつかれたあとの7回表、1死から高松が仕掛けたセーフティバントは三塁線を割れることなく見事に成功。これを足がかりに3点奪い、試合の流れを確かなものにした。惜しくも本塁憤死だったものの、2死二塁からの渡辺のセンター前ヒットも忘れてはならない。どれだけリードを広げても手を緩めることなく追加点を狙う。常に前のめりだった故・大豊泰昭さんを彷彿とさせる一本足の後継者が見せた貪欲さに、思わず涙腺が緩んでしまった。

 

 若手の積極起用がはまっての快勝。とはいえ高松は常時スタメン起用できるレベルの選手ではなく、ベンチメンバーを含めて野手層をもう一枚厚くする必要はある。舞洲から甲子園は車でたった20分の距離。明日は待ってるぞ、秘密兵器。

(木俣はようやっとる)