ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

忘れられないの

●1-2 ヤクルト(15回戦)

 またも川端慎吾ーーー。当たりは決して良かった訳ではない。ほんの少し高く弾んだ当たりはサード・高橋周平のグラブをかすめてファールグラウンドへと転がっていった。かつての首位打者は代打の切り札としてとてつもない存在感を放っている。
 スタメンオーダーを眺めてみても、代打を出せる打者は限られてくる。今日のような試合展開で川端が出てくるとき、それは即ち試合の行方を左右する場面だ。そして見事に仕事を果たしてチームを勝利に導く。他方……いや、これ以上は言うまい。

 痩せている、食が細い人に「もっと食べて太りなさい」といっても限界はある。食生活の改善や筋肉の作り方など、根本的な見直しを行ってはじめて効果が出てくる。似たような負け方を繰り返すチームに時間の猶予は残されていないだろう。

悲願の達成も福谷は何を振り返るか

 今日の先発・福谷浩司。先発転向してからの目標に掲げている「完投」は、未だ果たされていない。事あるごとに「長いイニングを投げたい、リリーフ陣の負担を減らしたい」という思いと「打たれてしまって申し訳ない」という反省の弁を本人の談話やnoteで目にするたびに、試行錯誤をしていることが伺い知れる。

 前回の登板と同じく、バッテリーを組んだのは大野奨太。小気味よいテンポで凡打の山を築き上げ、強力打線を相手に1巡目はパーフェクトピッチング。特筆すべきは早いテンポに加え、若いカウントからインコースへのボール球を使うことで打ち取る投球スタイルだったと思う。

 実に多くの打者が上半身をのけぞる、足元が動くというボール球から入ったピッチングだったが、次のボールでしっかりとストライクを取り、平行カウントに戻す。ボールが続いても打者の打ち気を利用しアウトを奪う。今日の福谷の好投の裏には、大野奨太の好リードがあってこそだ。

 8回表に代打が出た関係で、その裏のバッテリーはA.マルティネスと組むことになったがゼロに抑え、8回であるが本人の悲願である完投を記録することができた。おそらく明日、福谷がnoteで今日の登板を振り返るだろう。そのときに何を語るかを楽しみにしたい。

投げる球を決めるだけがリードじゃない

 福谷と大野との呼吸は見事に合っていた。それはインコースにボール球を投げさせるという指示を、大野がどういう意図で出しているかというのを福谷がはっきりと感じ取り、そのとおりに投げたところにある。ただ投げるだけではなく、打者の身体を動かすことで目線をずらす、1試合通してその後の打席を意識させる、ということを打者一人ひとりとの対決だけでなく、ゲームトータルで考えた上でのピッチングだった。

 もちろん、ゲームを組み立てる上で投げミスをしないということが大前提ではあるのだが、ボール球を効果的に使ったことで多少の甘い球もミスショットを誘うことができた。ホームランを量産している村上宗隆も、当たりの大きいファールボールがあったものの、それを「ファールだからよし」として結果無安打に抑えられたことは、今日だけでなく明日も、そして次にやってくる対戦カードでも嫌な印象を与えられたのではないか。

 

 「投手はただサイン通りに投げれば良いのではない。その意図を読み取ることが大切だ」とは、栄光を彩ったエース、川上憲伸や吉見一起は現役時代の谷繁元信との思い出を語るときによく口にしている。まさに今日の福谷のピッチングは大野の意図を読み取った上でしっかりと投げきった。

 ただ一人、福谷のピッチングを三塁ベンチで眺め自分の出番を待ちわびていた天才バットマンはそれを上手く利用した。簡単に追い込まれるものの、強引に引っ張りにかかるのではなくしっかりと三塁線に流し打った。高橋周平は打った瞬間1歩前に出たその次の瞬間、後ろに下がった。おそらくバウンドしたときの弾み方が想像よりも高かったのだろう。その1歩が命取りとなってしまった。今日の川端の勝ち越し打はこれから何度も何度もフラッシュバックしてくることになりそうだ。

 

 とはいえ、福谷の持ち味を存分に引き出した大野奨太のオーソドックスではあるが老獪なリードは、残り少なくなってきた今シーズンに新たなエッセンスとして他球団の頭を悩ますことになるだろう。

(yuya)