ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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いまわの際を見た男

●0-2阪神(14回戦)

 0勝3敗2分ーー今季ドラゴンズは3連戦のカードを2連勝で迎えた場合、3試合目は一度たりとも勝てていない。つまり95試合を消化して未だにスイープなし。一方で被3タテは4度喫している。これじゃ借金が増えるのも当たり前だよ、と眉間に皺を寄せながら黒星だらけの勘定と睨めっこをしていると気が滅入りそうになる。

 前節の広島戦では2試合続けて零封といい感じで連勝しながらも、頼みの金メダリスト・大野雄大で負けてスイープならず。ただチーム状況は決して悪くなく、今カードは初戦で西勇輝を攻略。2戦目も文句なしの快勝で弾みを付け、今日はよほどヘタをこかない限りスイープするだろうと、浅はかな私はいつになく余裕をぶっこいていたのだった。

 ところがこんな時に限ってひょっこり顔を出すのが貧打のバカヤローである。オーバースロー右腕、直球は140キロ出るかどうかという今どき高校生でも上位グループには入れないようなスペックながら、なぜか打てない不思議な投手・秋山拓巳の前に凡打の山を築く竜打線。終わってみれば散発4安打と見せ場らしい見せ場もなく、小笠原慎之介の好投も虚しくまたしてもスイープの壁に跳ね返されてしまった。

 ただ、トータルで見れば本拠地6連戦の結果は上出来と言えるだろう。何しろ巨人に虐殺されて始まった後半戦である。短期間でここまで持ち直したのだから、まずはヨシとしよう。2カード連続勝ち越しの立役者は “崖っぷちの二人” だ。広島戦のヒーローが初ホームランの渡辺勝なら、阪神戦で最も目立っていたのは背番号48、溝脇隼人だった。

“前橋の夜” から一ヶ月半

「やっと一軍に上がっていい当たりが出たね」

 20日の試合後、溝脇のダメ押しタイムリー三塁打を与田監督はホッとしたように喜んだ。前日の今季初安打は内野安打。バットを振り切って放った「いい当たり」は、今季22打席目にして初めてだった。

 しかし「やっと」が含む意味は、おそらくそれだけではない。シーズンを追いかけているファンなら日付と場所だけでピンと来るだろう。7月6日、前橋でおこなわれた巨人戦。溝脇はスタメン1番に抜擢されるも3打数3三振(しかも全て空振り)、守っては一時逆転を許すタイムリーエラーを喫するなど散々な結果に終わり、すぐさま二軍降格を告げられた。

 大きな期待を裏切れば、その分悪い印象も強く残る。巷では「溝脇は終わった」という声もちらほら囁かれ、エキシビション・マッチで一軍に呼ばれた際には、整理対象選手の見極めでは? なんて噂まで流れたりもした。一流選手は10回ミスしても評価が落ちることはないが、無名の若手は1回のミスが命取りになる。残酷だが、それがプロ野球界の現実だ。

 8月になり、あいかわらずファームでは好調をキープしていたが、後半戦の一軍メンバーに溝脇が選ばれることはなかった。阿部寿樹が故障で出遅れても、セカンドを任されたのは三ツ俣大樹だった。ハタチそこそこならともかく27歳となれば周囲の目も厳しくなる。平均在籍期間7.7年というプロ野球の世界において溝脇は入団9年目。『ミッション・インポッシブル』のトム・クルーズばりに指一本でなんとか崖っぷちにぶら下がっている状況だ。

 しかし、溝脇は死地から這い上がった。要因は “二つの偶然”。一つ目は阿部の穴埋めを期待された三ツ俣の故障。二つ目は不動のレギュラー・高橋周平の深刻なスランプである。これにより堂上直倫がサードに回り、スクランブル招聘の溝脇をセカンドでスタメン起用する環境が整った。こうして溝脇はあの “前橋の夜” から一ヶ月半で一軍スタメン復帰を果たしたのである。

 

 そうは言っても失った信頼を取り戻すのは至難の業。今度こそ失敗すればそのまま崖下に突き落とされてもおかしくない状況で、溝脇は過去最高ともいえるパフォーマンスでもって重圧を跳ね除けた。打ってはタイムリー三塁打、4打数4安打ときて今日も1安打1四球で7打席連続出塁。6回には初戦に続いてピンチを救うファインプレーもみせた。

 度重なる怪我とミスに邪魔され続けたプロ人生。いまわの際を見た男の逆襲が始まった。

(木俣はようやっとる)

 

与田監督コメント引用『中日スポーツ』