○3-0広島(15回戦)
広島との後半戦本拠地最初のシリーズ、Game 1はドラゴンズが3-0で勝利。連敗は6でストップした。
先発・福谷浩司は持ち前のストライク先行の投球が光り、7回まで三塁を踏ませぬ好投。6月23日以来の5勝目を挙げた。打っては、渡辺勝がプロ初アーチを含む2安打2打点、アリエル・マルティネスが代打タイムリーの活躍。後半戦から一軍登録された選手が勝利に貢献した。
ついに訪れたスタメンのチャンス
「高松に続く機動力、守備力を使える選手として期待している」
後半戦突入にあたり、与田剛監督は伊藤康祐と渡辺勝について、このように語った。例年通りの得点力に乏しい打線の活性化、その白羽の矢が彼らに立ったのだ。
先にチャンスをつかんだのは伊藤だったが、「ワッショイベースボール」で勢いに乗る巨人相手に活躍ができず、わずか2戦でスタメン落ち。日曜の試合を挟んで迎えた今夜、ついに渡辺にスタメンの機会が訪れた。2番・レフトでの出場である。
先制打だけでなく、プロ初アーチも
今季初めてかつ、通算でも3度目の一軍スタメン。しかも相手先発はチームが一度も土をつけたことのない森下暢仁。結果を出せ、という方が酷な状況だ。戦前の見立てでは、ヒット1本、もしくは選球眼の良さを買って四球――。1回でも出塁して、機動力を使えたらというのが関の山と見ていた。
しかし、背番号31は自分の見立てを遥かに超える活躍を見せてくれた。
両軍無得点の3回裏、京田陽太の粘りと盗塁でつくった2死二塁の好機で、渡辺はレフト前にしぶとく落とす先制打。カウント1-2と追い込まれていたが、低めのカットボールを引きつけて捉える技ありの打撃だ。さらに渡辺は、3番・大島洋平への初球ですかさず二塁を奪い、五輪帰りの森下を好きにはさせない姿勢を示した。
これだけでも殊勲の活躍なのに、8回の第4打席では待望のプロ初アーチをぶっ放した。ケムナ誠が投じた、ど真ん中直球、ドンピシャのタイミングで捉えた打球は高々と舞い上がり、ドラファンの待つライトスタンドへ着弾。笑顔のホームインが眩しかった。
渡辺から感じる、いい意味での頑固さ
渡辺といえば「一本足打法」がトレードマーク。投球モーションに合わせて右足を上げながらタイミングをとる、独特の打法だ。言わずもがな、世界の本塁打王・王貞治(現ソフトバンクホークス会長)の代名詞である。
渡辺と王は荒川博(元巨人コーチ、ヤクルト監督)に師事し、一本足打法を身につけた。60歳近く離れている人が同じ師匠を持つのは不思議な感じもするが、渡辺は「荒川道場最後の弟子」と呼ばれ、アマチュア時代からずっとこの打法を貫いてきた。自分の打撃に疑心暗鬼になっても、右足を下ろすことはなかった。
王も三冠王を何度も獲る前に、「二本足打法」に戻すことを検討したという。荒川からも同様の提案があったそうだが、極度のスランプに陥り、結局一本足に戻したそうだ。
2019年オフ、王は渡辺にこう話したという。
「僕も若い頃、色々言われてね。一本足をやめようと思ったことがあった。だけど一番自分にしっくりくる打ち方はやっぱり一本足だったんだ」
信念を持って物事に取り組む人は、もがきながらも、いい意味での頑固さを保つのだろう。その頑固さが、本塁打が出た瞬間ついに花開いたと思い、テレビの前で思わず「良かったねぇ……」とつぶやいてしまった。
育成上がりの大卒6年目。不謹慎な話、今季で整理対象になってもおかしくない状況で、渡辺はそれを帳消しするようなインパクトを残した。CS圏内が遥か遠くにある今、少しでも良い現実に変えていく男たちの意地を見たい。(ikki)
コメント引用・参考資料:「日刊スポーツ」「週刊ベースボールONLINE」「J SPORTS 野球好きコラム」