ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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オペレッタ

 朝目覚めたら、毎週楽しみで仕方がなかった火曜日は既になかった。変わったのは新聞のテレビ欄。今週から「大豆田とわ子と三人の元夫」がひっそりと姿を消していた。脚本やキャストだけではなく、音楽、世界観と全てが秀逸だった傑作との別れは当分引きずることになりそうだ。

 「まめ夫」がフィナーレを迎えた一方、今週も続くものもある。そう、ドラゴンズの試合だ。しかも、本日からは首位・阪神を本拠地に迎えての3連戦。虎退治が心の隙間を埋めてくれることを願いつつ、プレーボールの声を聞いた。

興味津々

 注目の初戦の先発マウンドには大野雄大が上った。この日の大野には、注目ポイントが目白押し。阪神の先発・青柳晃洋との侍ジャパン対決や4月の初対戦で特大の一発を浴びた佐藤輝明との「タイマン」が待っている。

 ところが、交流戦が明けてもエースの状態はどうもしっくりこない。2回表1死から佐藤のレフトフェンス上段を襲う二塁打でピンチを招くと、四球も絡んで呆気なく2失点。試合序盤から不穏な空気が漂う中で、一人の若武者が反撃の狼煙を上げた。その若武者の名は高松渡。誰もが認めるドラゴンズの韋駄天だ。

 イニングの先頭打者となった4回裏の第2打席。圧巻の投球を見せていた青柳から放った一、二塁間へのゴロで内野安打をもぎ取った。出塁さえすれば自慢の脚力をお披露目する機会は訪れやすくなる。だが、高松の場合は一筋縄でいかない。いかんせん、牽制球で刺される場面が目立つのだ。

 盗塁はスタート(Start)・スピード(Speed)・スライディング(Sliding)の3Sが肝心と一般的に言われている。特に投手との駆け引きが存在するスタートに関しては、勝負度胸も問われてくる。

 野球の盗塁は陸上の短距離とは異なり、フライングが許される。つまり、決められたタイミングを待って走る必要はない。スタートの瞬間は自分自身で決めることができるのだ。多くの名ランナー達も、自らの「間」に持ち込むことができるよう、神経をすり減らしてきた歴史がある。

 迎えた3番・高橋周平の打席の2球目を投げる態勢に青柳が入った瞬間だった。高松がスタートを切ってしまった。しかし、ボールは軟投派右腕のグローブの中。阪神バッテリーも細心の注意を払い、長めにボールを持って走者との間合いを図っていた。その光景はまるで、密林の王者・ベンガルトラの前に飛び出したバンビ。絶体絶命の状況だったが、なんとか帰塁。かろうじて難を逃れた。

 瀕死の状態になったとなると、次の投球で盗塁を企図することは途轍もなく勇気がいる。足が動かなくなるような場面だったが、背番号0はフルスロットルで足を動かした。悠々二塁を陥れただけではなく、送球もそれて三進。その後高橋の内野ゴロの間に生還し、1点をもぎ取ってしまった。

みんな、色々ある

 高松の足で1点を返したものの、その後スコアが動くことはなかった。阪神との点差はわずか1点。とはいうものの、1点の間には途轍もなく大きな隔たりを感じた。両チームの差は、状況に応じた選手起用が可能か否かという点だ。大山悠輔や佐藤らチームの核となる選手の差は勿論、脇を固める選手も多士済々の顔ぶれを誇る。極端に言えば「打つ人」、「守る人」、「走る人」と役割分担ができている。

 しかしながら、いつまでも他チームのことを羨んでばかりもいられない。ドラゴンズも他球団が惚れ惚れするような陣容を築き上げなければならないのだ。そのためには、既存戦力の底上げは不可欠になる。特に若手選手には、チームの主力になるだけの力量を身につけてほしいと心から祈るばかりだ。

 勿論、欠点のある選手を起用し、試合中のある程度の失敗を覚悟しなければならない。高松ならば、外野守備の精度や走り打ち気味になる打撃も要改善だ。しかしながら、この試合で見せた走力を目の当たりにしたら、期待せざるを得ない。そして、失敗を糧にして成長する姿を見守るだけの心の余裕を持ち合わせたいものだ。

 試合には敗れたが、良いものを見た。もう松たか子を楽しむことはできないが、高松渡がもっと楽しませてくれそうだ。(k-yad)