ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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脱皮の瞬間

●1-2ヤクルト(11回戦)

 野球ゲームには実にありがたい設定が施されている。監督経験がなくても、調子や疲労を見極めた上での選手起用ができるようになっているのだ。スタメンを選ぶ際は、選手の調子の良し悪しが一目瞭然。「パワプロ」では、投手の疲労が溜まってくると、明らかにマウンドで辛そうな素振りを見せてくれる。

 反面、実際の現場において選手の見極めは、いつの時も大変な仕事だ。能力や調子だけではなく、長いシーズンや選手個々の将来を考える場面が多々ある。本日の試合は架空の世界ではなく、現実世界だからこその難しさと奥深さを実感する試合となった。

一手のタイミング

 ドラゴンズの先発投手は勝野昌慶。この日の勝野は上々の出来だったと言えよう。序盤から一発のある打者を揃えるヤクルト打線から凡打の山を築いた。気が付けば安打も許さず、スコアボードに刻まれる数字は0ばかり。わずか4イニングでの降板となった前回の登板とは見違える内容だった。

 特に良かったのが、対右打者のインコース低めへのボールだ。ヤクルト打線の中心には若き主砲・村上宗隆が君臨する。だが、前後を固める山田哲人とオスナ、出塁すると実に煩いリードオフマンの塩見泰隆はいずれも右打ちだ。

 それ故に、要警戒の打者がストレート、変化球いずれに対しても思わず「おっ!」と驚くような反応を見せていたのは実に爽快だった。

 ところが、6回裏に事態は急変してしまう。先頭打者の塩見に対して、いきなりストレートの四球。一死・二塁と局面が変わり迎えた山田も、ストライクを1球も投げ込むことなく歩かせてしまった。

 2つの四球の伏線は、両打者の前打席にある。前者に関しては、執拗な内角攻めの末に四球を与えたことで、投げにくそうなのは明らかだった。ぶつけてしまった相手を嫌がるのはよくある話。問題は後者だ。4回裏の先頭打者として対峙した際に、山田を三球三振に斬って取っていた。初球のストレートで1ストライク。2球目のスライダーでファウルを誘うと、最後はインコース低めにフォークを落として一丁上がり。

 しかし、Mr.トリプルスリーが二度同じ手を食うことはない。初球のフォークを見切られると、ドラゴンズバッテリーは一気に追い込まれた。何せ最初の一手が良すぎたのだ。トランプに例えると、最初の一手で最高の手札を切ったようなもの。しかも1点が命取りになる場面で、次の打者は主砲・村上。私の眼には敬意を払ったというより、投げる球が尽きたかのような四球に映った。

 幸いにもこの回は傷を負うことなく凌いだ。一方で、背番号41が限界を迎えていることは明白だった。しかも今季初となる100球は目前。7回表の攻撃で打順が回ってきたら、代打を告げる場面。だが、9番・勝野の前で攻撃が終わった。

獅子は我が子を千尋の谷に落とす

 「続投か? 交代か?」。2番手投手が出てきても不思議ではなかったが、監督も投手コーチもグラウンドにはいない。首脳陣は、今季ローテーションに定着した3年目右腕に敢えて試練を与えた。

 過去の自分を超える挑戦は、実に残酷な結果に終わった。あっさり2死となったものの、代打・宮本丈にセンター前に運ばれてしまう。続く打者は代打・川端慎吾。迎えた運命の4球目。2-1から投じた内角のスライダーに川端のバットが一閃。勝野は稀代のヒットメーカーの軍門に降(くだ)った。

 打たれるべくして打たれるとはこのことかもしれない。しかしながら、ベンチワークが不適切だったとも思えない。次の回の攻撃で打順が回ることは周知の事実。ならば、下位打線と対峙するこの回を勝野に乗り越えてほしいと思うのは当然の帰結だ。

 リーグ屈指と言われるドラゴンズ先発投手陣も、ここ最近は調子が下降気味。エース・大野雄大はピリッとせず、本格化した柳裕也もここ2試合は打ち込まれている。更に他の先発陣も褒められる投球を見せていない。苦境の中で見せた勝野の快投は、チームにとって何よりの良薬だった。

 4月に東京ドームの巨人戦で完膚なきまでに散った投手はもういない。同じ黒星が付いたとはいえ、首脳陣が求めるレベルも、投球内容も格段に次元が高くなった。この日の敗戦の真価が問われるのは、おそらく27日のマツダスタジアム。鈴木誠也や菊池涼介を牛耳って勝利を収めるようならば、神宮球場に残った誰かの抜け殻は勝野のものと分かるはずだ。

(k-yad)