ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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意図

○7-3楽天(2回戦)

 今日もこのまま負けるのか……。高橋周平の2ランで先制した直後の3回裏に追いつかれた時は、ここ数試合の悪い流れが頭をよぎった。

 だが、ここでズルズル行かないのが今年の交流戦でのドラゴンズ。大味になりかけた試合展開であっても、頼りになる中継ぎ陣が試合をピリッとさせ、終盤の効果的な追加点で連敗をストップ。この日の勝利で、2017年以来の勝率5割以上が確定したと同時に、交流戦首位に返り咲いた。

 

当事者しか知らない

 打線が今シーズン最多の14安打を放つ中で気になったのが、同点に追いつかれた直後、1点を勝ち越した4回表の攻撃だ。

 先頭の福田永将がフェンス直撃の三塁打で出塁し、続く木下拓哉がしぶとく三遊間を割った。さらに、指名打者で先発起用された山下斐紹が右前安打で続き、無死一、二塁。追加点を挙げる絶好の好機が到来。打席には8番に打順を下げた阿部寿樹が入った。

 自由に打たせるのか? バントでそれぞれの走者を進塁させるのか? まさに何でもできる局面だ。楽天の先発・則本昂大がセットポジションに入った段階では、阿部は確かにバントの構えをしていた。しかしながら則本の指から白球が離れたその瞬間、阿部は寝かせていたバットを立て、ヒッティングの構えに転じた。

 「マスターがバスター!?」

 あまりの不意打ちに、意図せずダジャレを叫んでしまった。何故この場面でバスターを選択したのかーー。真っ先に思い付いたのは阿部のサイン間違いだ。もしそうならば、2球目は安全策でも強行策でも、全く異なる攻撃を仕掛けてくるはずだ。

 だが、背番号5は平然とバントの構えを見せた。奇襲再びかとも思ったが、則本が投じたのは高めのボール球。まだこの段階では、ベンチからの真偽ははっきりしない。

 勝負の3球目。ドラゴンズベンチはバスターを貫いた。結果はボテボテの打球が三塁前に転がり、5-4-3の併殺打。大チャンスが一転、2死三塁に局面が変わった。

 続く9番・根尾昂は四球を選んだものの、1番・大島洋平がレフトフライに倒れて凡退。相手はエース格とは言え、押せ押せムードでビッグイニングも期待されただけに、1点止まりでは物足りなさが残ったのも事実だ。

 

縦の意図と横の意図

 併殺打という結果だけ切り取れば、バスターは最悪の作戦だったと言えるのもしれない。しかしながら結果以上に、ベンチが数ある作戦の中からバスターを選択するまでの “過程” が気になって仕方ない。

 確かに無死一、二塁で、山下と木下拓。両者ともに脚力で勝負をする選手ではないだけに、バントが封殺されるリスクは高いと判断できる。さらに、次の打者はこの試合が始まるまで18打席連続無安打の根尾。うまく繋いだとしても、良い結果を望むことは正直なところ難しい。

 では、強行策を選択していたらどうだっただろうか。阿部自身も状態がなかなか上向かない中で走者を還す打撃をするのか、あくまでも進塁打でOKとするかで打席の内容は大きく異なってくるが、一方で内野フライや三振に倒れれば相手に流れを渡すリスクもはらんでいる。どちらの作戦を取るべきか、極めて難しい選択だったのは言うまでもない。

 だからこそ、阿部が初球に手を出した意図を推し量りたくなる。例えばバントの構えを見せて、楽天の守備体系の様子を見ることもできたはずだ。だが、ドラゴンズサイドは初球から仕掛けた。追い込まれてしまうと杜の都が誇るエースのウィニングショットが待っているので、若いカウントで勝負を懸けるのは不思議なことではない。

 あるいは右打ちの技術が高い阿部が打ったファウルから推測すると、最初から進塁打ではなくタイムリーを狙っての打席だったのだろうか?

 

 野球の戦術は作戦を出す側の明確な意図と、実行する側のインテリジェンスと実行力がなければ成立しない。強いチームは必ずと言ってよいほど、選手自身が何をすべきかを理解しているものだ。ベンチから特段指示を出さずとも、選手同士で戦況を判断し、グラウンド上の問題を解決してしまうのだ。

 この打席で、果たして阿部が首脳陣の期待に応えることができたのかどうか。真相は闇の中だ。何せ、かつて井端弘和の何気ないサードゴロを「収穫」とした指揮官もいたわけだから。この打席が阿部にとって、チームにとって実りあるものになったのか否か。判明するのは少なくともシーズン終了後、いや何年も先なのかもしれない。(k-yad)