ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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プラチナチケット

○1-0ロッテ(1回戦)

 もしプロ野球が、その日の先発投手やスタメンに応じてチケット価格が変動する仕組みだったら? そんな空想が近年、NPBでも当たり前のものになってきている。いわゆる『ダイナミックプライシング』という仕組みで、「試合日程、需給バランス、チーム状況などのデータを基にAIがチケット価格を自動調整して、価格を算出する」のだそうだ。

 ドラゴンズも今季からバンテリンドームで開催される全71試合でこの販売方式を試験導入。『ドラチケ』会員限定で、バックネット裏後方の上段スタンドに位置するパノラマA750席が対象となっている。

 どうせ観に行くなら勝ち試合がいいのは誰だって同じだし、勝つ確率が高いのは必然的にエースが投げる日ということになる。その点でいくと、今季は柳裕也の先発試合の価格がぶっちぎりに高騰するはずだ。

 まさしく勝利が約束されたチケット。そしてそれ以上に、今の柳は高いお金を払ってでも観るべき投手だと断言できる。柳の投球を生で堪能できる時点で、もはやそれはプラチナチケットなのである。

 

スミ1シャットアウト

 2時間12分。早めの試合開始とはいえ、ナイターで19時台の終了は滅多にお目にかかれるものではない。それどころか過去を手繰っても思い当たる節がないのだが、果たしてこの20年間で19時台のゲームセットはあったのだろうか。

 だいぶ昔、上原浩治が投げた巨人-横浜か何かで1時間台の試合を見た記憶があるが、少なくともドラゴンズ戦では初めてではないだろうか。きっと明日の『中日スポーツ』に近年の短時間試合の一覧が載るだろうから、答え合わせはそちらを参考にしてもらいたい。

 さて、記録的なスピード勝利の立役者はなんといっても柳である。あらゆる指標でリーグトップに君臨する右腕は、交流戦の開幕にあたる一週間前のソフトバンク戦で7回無失点の好投。工藤監督をして「そうそう打てるなら防御率1点台じゃないでしょう」と手放しで称賛するなど、その名をセ・リーグのみならず球界全体に知らしめた。

 迎えた今日の対戦相手はロッテ。2年前、本拠地にホームランテラス(ラグーン)が設置されたことで貧打が改善。チーム本塁打(53)、盗塁(46)共にリーグ2位と “重・軽” どちらのアプローチでも得点を取ることができる、投手にとっては厄介な相手だ。

 しかし柳は序盤から持ち球を余すことなくフル活用。2者連続三振を含む三者凡退と最高の滑り出しを切ると、その後はワンマンショーの様相。緩急を交えた投球で凡打の山を築き、気付けばノーヒットのまま中盤に突入した。大記録が頭にちらついた6回表、惜しくも初安打こそ許したものの、続く荻野貴司を自らの好フィールディングで併殺に打ち取る姿には貫禄さえ漂っているように見えた。

 並の投手なら堪えきれず崩れてしまってもおかしくないほど味方の拙攻が足を引っ張ったが、今日の柳は1点あれば十分だった。最終回はわずか6球で3人を封じ、いわゆるスミ1のシャットアウト劇を見事に完結。むしろもっと見ていたいと思わせるほどの芸術的な投球にファンは酔いしれた。

 

5年前に語った「夢」

 試合後のヒーローインタビューでは高校の先輩・福田永将をおちょくるなど終始おどけながらも、「今だけにならないように次も頑張ります」と語ったときの真剣な表情が印象的だった。一躍ブレークした2年前はオールスター時点で9勝と二桁勝利に王手をかけながら、そこから勝ちに見放されてシーズン11勝どまり。一時は最多勝も視野に入れていただけに、残念な失速となった。

 あの苦い経験を味わったことで、継続の難しさと重要さを身に染みて理解したのだろう。柳の口から出た言葉には、確かな決意が籠っているように聞こえた。「次」の登板は敵地での楽天戦が濃厚。東北の地で今度はどんなすごい投球を見せてくれるのかが今から楽しみだ。

 ところで柳は5年前、ドラフトにかかった直後のインタビューで、「今の夢は何でしょう」という記者の質問に対して「柳を見にこようと球場に来てくれる方がたくさん増えてくれればなと思いますね」と答えていた。間違いなく、その夢は叶ったといえよう。

(木俣はようやっとる)

 

【参考資料】

工藤監督コメント『中日スポーツ』

柳裕也コメント『明大スポーツ』