ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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1クールor1シーン

△2-2ヤクルト(8回戦)

 名将・野村克也は、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という名言を遺した。もしバンテリンドームの試合を解説していたら、ボヤきにボヤいて視聴者を楽しませていたに違いない。

 1点をリードされた9回裏に何とか追いついた引き分け。粘った末の価値ある引き分けと捉えることもできるが、3度あった無死二塁の場面をことごとく潰すなど、拙攻続きの歯痒い引き分けだった。ノムさんの言葉を用いるならば、偶発的な引き分けもあれば、必然的に引き分けにならざるを得ない場合もあるといったところか。

 とはいえ、本拠地3タテという最悪の事態を免れることはできた。「歯痒い引き分け」を「価値ある引き分け」にするには、今後の戦い方でカバーするしかない。

 

分岐点

 佐々木朗希(ロッテ)のプロ入り初登板となった5月16日。ヤクルトの先発投手としてバンテリンドームのマウンドに登ったのは奥川恭伸だった。

 佐々木と奥川と言えば、2019年のドラフト会議において高校生投手では最高の評価を受けた怪物コンビだ。特に準地元の北陸が生んだ甲子園の大スターにはドラゴンズもご執心だった。担当するのは星稜高校の先輩・音重鎮スカウト。中日スポーツでは、何度も1位候補として名前が上がった。サンデードラゴンズで司会を務める若狭敬一アナも滝つぼで「奥川くーーん‼︎」と絶叫したほどだ。

 しかしながら、ドラゴンズと奥川が結ばれることはなかった。ドラフト会議で愛の告白をしたのが石川昂弥(当時・東邦)だったのは、言うまでもない。長きにわたって続く長打不足を解消するために獲得した将来の主軸打者。球団は大勝負に出て、地元・東邦高校のスラッガーに未来を託した。

 因縁の奥川に対し、過去の対戦ではプロの洗礼を浴びせたものの、尾張の地に降り立った奥川はまるで別人。過去5試合中4試合で初回に失点していた燕の将来のエース候補が、序盤を0で乗り切った。3回裏以外は走者を出したが、得点できたのは5回裏の大島洋平の犠牲フライのみ。長打でねじ伏せることもなく、スモールベースボールで嫌らしく1点をもぎ取ることもなく、淡々とイニングを重ねてしまった。

 14日からのヤクルト3連戦で挙げた得点は、わずか3点。白熱したロースコアの投手戦ではなく、得点が入らない貧打戦は手に汗握らない。毎日手に汗握るのは心臓に悪いので、野手陣の奮起と首脳陣の柔軟な選手起用を促したい。

 

歴史の積み重ね

 今朝の中日スポーツ「龍の背に乗って」は、不振を極めるガーバーに焦点を当てたものだった。打線の起爆剤として入団したはずだった助っ人のブレーキ。一時的な不調なのか、起用するに値しないのかは置いておいて、我慢の限界が刻一刻と迫っているのも事実だ。

 とりわけ苦しい現状においては、手っ取り早く救世主的な存在を求めたくなるし、その対象としてよく挙がるのが石川昂の名前である。ルーキーイヤーから二軍で英才教育を施され、新人離れした打棒を見せつけた。2年目となる今シーズンは故障で出遅れたものの、既に復帰し、ファームで牙を研いでいる。

 石川昂は将来的に球団を背負っていかなけばならない選手だ。しかしながら、チーム状態を理由とした安易な一軍起用には待ったをかけたい。高いポテンシャルを誇るスター候補といえども、昇格させたところでベンチを温めるような場合、折角の実戦の機会を失いかねないからだ。

 今後、ヤクルト・奥川はドラゴンズの前に長年立ちはだかる好敵手になるだろう。その一方でドラゴンズは石川昂がチームを支える未来が訪れるならば、それはチームとしては大勝利だ。

 チーム状態には大なり小なり波はある。だからこそ、石川昂の将来を最優先した上での慎重な判断をくだすことを望みたい。目の前の試合は、長い歴史のほんの1シーンにすぎないのだ。

(k-yad)