ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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○8-4DeNA(8回戦)

 まさに「千両役者」。根尾昂の一振りが、球団史に残る一勝をもたらした。試合内容は決して褒められるものではなかったが、スーパースターの一発だけでも計り知れない価値がある。明日のプレイボールを迎えるまではこの余韻に浸っていたい。

 

凱歌とともに

 初回に4点を先制したドラゴンズだったが、この日の先発を任されたエース・大野雄大の投球がピリッとしない。すぐさま3点を返され、4-3。楽勝ムードが一転、雲行きの怪しい試合展開となった。

 DeNA打線が反撃を開始したにもかかわらず、先発・大貫晋一は投球の立て直しに一苦労。2回裏こそ得点はならなかったが、3回裏に再びドラゴンズ打線が牙を剥いた。ダヤン・ビシエドと高橋周平の打球が悉(ことごと)くシフトの逆を突き、無死一、二塁。続く6番・木下拓哉はレフトライナーに倒れたものの、鋭い打球を何とかレフトが処理したものだった。

 1死一、二塁となって阿部寿樹はストレートの四球。労せずして満塁となったところで左打席に入ったのは背番号7。

 「かっせー!パワプロ」

 大阪桐蔭時代から何十回、何百回と耳にした応援歌に乗せて打席に入ると、2-0で迎えた3球目にその時は訪れた。大貫が投じた真ん中付近の142キロツーシームを強振。大歓声とともに運ばれた打球は、広いバンテリンドームの右中間スタンドに吸い込まれた。プロ入り初本塁打がグランドスラムの離れ業。

 この本塁打は単なるプロ初本塁打ではない。根尾が1か月、いや、3年間のプロ野球生活でもがいた末の会心の一本だ。

 念願の開幕一軍を勝ち取ったものの、「内角寄りのボールへの対応」、「140キロを超えるボールを引っ張る打撃」には大きな課題を残していた。いずれも、一軍レベルの投手に対応するため上での大きなテーマだ。内角寄りのストレートを投げ込まれると、手も足も出ない場面が目立っていたのは周知の事実。ホットゾーンも真ん中低めに集中し、対応できるボールは非常に限られていた。

 結果を残せず、厳しい視線に晒される日々が続いたが、ここにきて変化が生じ始めている。菅野智之(巨人)や西勇輝(阪神)といった一線級の投手から長打を放つ場面も出てきたのだ。しかしながら、いずれも逆方向への当たり。山崎康晃(DeNA)から放った前日の三塁打は引っ張った打球だったが、ライトの守備に助けられた感もあった。

 「あと少し」。きっかけを掴みかけていた中で飛び出した待望の一発。ダイヤモンドを悠々と一周する様は、甲子園のスターではなく、プロ野球選手の姿そのものだった。

 

必然

 満塁弾だけで終わらないのが、今の根尾だ。4点リードで迎えた8回裏、2死走者なしで迎えた場面での打席内容に成長の跡がはっきりと見て取れた。

 自身の一打で試合を決定付けてはいたものの、その後は追加点を奪えない展開。直前のイニングも2番手・又吉克樹がピンチを招く苦しい投球で、この回の攻撃が三者凡退で終わってしまうと、4点リードとはいえ最終回に嫌な流れを持ち込んでしまう。

 豪快な一発を放った第2打席とは異なり、この第4打席ではクレバーな打撃を披露した。偶然テレビカメラが捉えた根尾のバッティンググローブ。注目したのは、鮮やかなブルーの手袋ではなくバットを握る右手の位置だ。

 わずかではあるが、バットを短く持っていたのだ。これまでも短く持つ場面はあったものの、長打を欲張っても良い場面。ベンチからの指示なのか自らの判断なのかは分からないが、ほんの少しの工夫が鮮やかなセンター返しを呼び込んだ。7球目まで粘って、打ち返したのはど真ん中に来た147キロのストレート。スピードボールに差し込まれて、弱々しく凡退した姿はもうない。

 打撃の修正を図った関東遠征から約2週間。短期間の間に劇的に打撃の内容を改善できたのは、根尾自身の身体能力に加えて、自らの課題を整理して工夫する思考能力の高さに他ならない。

 プロ入り前に親交のある野球ライターの方が仰っていた、「根尾ならどの球団に行っても大丈夫」という言葉を思い出した。過去の全ての経験を昇華し、自らの糧にできるプロ野球選手はどれだけいるのだろうか。稀な存在ならば、まさに傑物。新たな時代の曙はすぐそこだ。

(k-yad)