ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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「間」

○2-1阪神(4回戦)

 プレイボールからわずか60分少々でグラウンド整備が行われた今日の試合は、往年の川上憲伸と上原浩治の投げあいを彷彿とさせる投手戦だった。

 阪神の大物ルーキー・佐藤輝明が大野雄大の失投をライトスタンドにぶっ飛ばした。ど真ん中の半速球ではあるが、あれだけのスイングで特大のホームランは相手チームの選手とはいえ非常に華があり、放物線が着地するそのときまで私は思わず声をあげて感嘆してしまった。

 そして打線は西勇輝に対して全く打てる気配のない……いや、それよりも今日の西はストライクゾーン付近にしか投球がいかない素晴らしいピッチングを繰り広げていた。少ないチャンスから奪った2得点が勝利に結びついただけに、こうした試合で勝ち切ることができたのはとても大きかったと思う。

 私は元々投手戦が好きなので、できるならば今日のぎゅっと張り詰めた緊張感を球場で感じたかったものだ。

 

ベテランリードオフマンの「技」

 5試合ぶりのスタメン起用となった根尾昂が2本のヒットを放った。第1打席は真ん中付近のシュートをレフト線に運び、プロ初長打となるツーベース。6回の第2打席はしっかりと振り抜いてライト前にマルチ安打。自分の形でスイングした結果の2安打をきっかけに、打率、長打率のアップを期待したいところだ。

 その根尾を一塁に置いた6回、大島洋平の打席でエンドランを敢行。引っ張った打球は一、二塁間を破り、追いつくための貴重なチャンス拡大となった。

 西が投球も決してコースが甘かった訳ではなく、低めに投げきった素晴らしいボールだった。それを大島らしい当たりで打ち返したそのバッティング技術は、さすが10年以上レギュラーを張り続けた貫禄といったところか。

 

 今朝の『中日スポーツ』一面で評論家の井端弘和氏が 「気楽に打てる打順だからベテランの大島は1番を譲るべきだ」 という意見を述べていたが、あの場面、1番バッターの大島だからこそできた作戦であり、その後の得点に繋げられたのではないだろうかと私は思う。

 確実に先頭打者で回ってくるのは初回のみだが、この場面のように投手のバント失敗でチャンスを広げられずに先頭打者に回るという状況も同じように多くある。

 実働11年中、9年連続で100本以上を放っているヒットマンが1番に座る意義は、投手がバントを失敗しても相手に流れを持っていかない、そんな側面もあるのだ。

 

ゲームを彩った至高の「間」

 この日の試合を面白くしたポイントは 「間」 にあると感じた。まずは5回表、2アウト一塁の場面。

 阪神の8番打者、山本泰寛はファールボールで必死に食らいついていた。一塁ランナーの梅野隆太郎も連続でスタートを切るなど、阪神とすればワンヒットで追加点を取りたい場面だ。ここで大野は三度の牽制を挟み、さっさとエンドランを決めたい相手のリズムを絶妙に崩してみせた。

 打者のみに集中すれば良いところでじっくり時間をかけてアウトを奪った大野。5イニング目で初めてランナーを置いた場面だっただけに、エースらしい勝つための「技」を見たように感じた。

 

 大島の打席に戻る。2球目に西はプレートを外して「間」を作ったが投球はボールとなり、この日初めて2ボール0ストライクとなった。そして次の球、ストライクを取りにきた西の「隙」を見逃さなかった大島の巧打により、ヒットエンドランが成功した。

 それまでの西は冒頭の通り完璧で、得点の匂いを感じさせなかっただけに、「間」 に呑まれず、「隙」を突いた大島の技術が勝ったといえよう。

 

 痺れる投手戦の裏には、投球前のたった数秒の 「間」 が勝負を分けた、非常にレベルの高い野球を堪能させてもらった。(yuya)