ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

痛みを伴いながら

●3-4ヤクルト(4回戦)

 「ライデルで負けたら仕方ない」

 呪文のようにそう唱えて気持ちを落ち着かせようとしても、やはりショックなものはショックだ。

 差はわずか1点。対するはリーグ屈指の怖いクリーンアップ。それでもライデルなら難なく抑えてくれると思っていたし、ランナーを溜めても2死まで漕ぎ着けた時点で「負けはない」と確信していた。

 ところがオスナへの初球。高めに浮いた真っ直ぐを狙い澄ましたかのように叩いた打球は、ライトの頭上を超える悲劇の逆転サヨナラ打となってしまった。

 転々とする打球を追いかける平田良介。絶叫する「フジテレビone」の実況アナ。魂が抜けたようにテレビの前にへたり込む私。サヨナラ負けはどんなバッドエンドな映画よりもキツい。『セブン』よりも『ミスト』よりも、今夜の神宮劇場にはメンタルを削られた。

 

木下の完璧な仕事ぶり

 昨年一度もなかったサヨナラ負けが、今季は25試合目にして早くも二度目。どちらもゲームセットまであと1アウトとしながら、最後の打者に初球を打たれて撃沈している。

 今日のライデルはいつになく荒れており、どこに構えても同じ結果に終わっていたかもしれない。それでもリード役の木下拓哉は前回の教訓を踏まえてもう少し慎重に入るべきではなかったか。せめてピンチを招いた段階でマウンドへ駆け寄って一言、二言かけてあげることは出来なかったのか。

 実は今日の記事は、もし勝っていれば木下を主役に据えて書くつもりでいた。柳裕也をはじめ投手陣を導き、打っては反撃の狼煙を上げる2号ホームラン。特に7回裏、めずらしく先頭に四球を出した又吉克樹を救う盗塁阻止は見事だった。

 あの盗塁を刺すのと許すのとでは雲泥の差。昨季セ・リーグ盗塁阻止率ナンバーワンの強肩は、今季もトップの座を守っている。パスボールもわずか1個といわゆる “壁性能” にも定評があり、加えて打棒はチーム屈指の長打力を備えているのだから申し分ない。

 9回2死一、三塁。あの場面を迎えるまでは、木下の仕事っぷりは完璧だった。もしオスナを抑えていれば、乱調のライデルを制御したことでまた株が上がったことだろう。それがわずか1球で打ち砕かれるのが野球の怖さであり、面白さでもあるのだが……。

 

痛みを伴いながら

 谷繁元信が引退して以来、ドラゴンズの正捕手は長らく空位の時期が続いた。松井雅人、杉山翔大とその座に挑戦した者はいたが定着には至らず、正捕手の不在こそが低迷の要因だと指摘されることも多々あった。

 「強いチームには必ず正捕手がいる」とはプロ野球界の定説であり、実際に古田敦也や城島健司、阿部慎之助、そして谷繁といったレジェンド捕手が在籍したチームは例外なく黄金期を築いている。ある程度、信憑性のある説と言えるだろう。

 2019年シーズンは加藤匠馬が主にマスクを被ったが打撃面に向上が見られず、正捕手争いは再び振り出しに。そこに現れたのが、これまで二番手、三番手に甘んじてきた木下だった。

 昨季はシーズンの7割以上にあたる88試合でマスクを被り、チーム8年ぶりのAクラス入りに貢献。今季は初めて正捕手として開幕を迎え、ここまで25試合中24試合でスタメンマスクを任されている。

 

 今夜のライデルは絶不調で、変化球のサインを拒むのだからリードのしようも無かったかもしれない。それでも木下にはなんとか導いて欲しかった。なんてったって正捕手なのだから。

 あと1アウト取れていれば勝利の立役者だったのに、取れなかったがために苦言を呈されるという現実。捕手とはなんと損な役回りだろう。だが、このサヨナラ負けさえも木下の血となり肉となるなら耐えようではないか。

 数え切れないくらいの痛みを伴いながら、いつしか我々はこうつぶやく日が来るだろう。

 「木下のリードで負けたなら仕方ない」と。

(木俣はようやっとる)