ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

賽は投げられた

○2-1ヤクルト(2回戦)

 待望の勝利だった。木下拓哉がチームとして実に13試合ぶりの本塁打を放ち、先発投手の小笠原慎之介に勝ち星が付く。試合の主導権を握り、リリーフ陣が試合を締める。目指す勝ち方を体現できた試合だった。

 

畏敬

 勝ち投手となった小笠原の投球は、まるでエースが投げているかのようだった。ストレートはコンスタントに140キロ台後半を記録し、変化球の制球も安定。少ない球数で長いイニングを投げる姿は、今期の飛躍を期待させるものだった。

 とりわけ、主砲・村上宗隆との初回の第1打席がこの日の試合結果を決めたといっても良い。得点圏に走者を背負った場面で見せた大胆な内角攻め。そこに小笠原の凄みを感じさせた。

 左投手で右打者の懐を抉ることを得意にしている投手は多いものの、左打者の内角攻めがぎこちない投手が思いの外多い。しかしながら、小笠原は違った。140キロ台中盤のスピードボールを内角に続けた。3球目のカーブと最終6球目に投じたスライダー以外は全て内角攻め。村上の憮然とした表情が全てを物語っていた。

 その後の2打席では、リズムを狂わされた村上が完全にバッテリーの餌食となっていた。とはいうものの、やられっ放しで終わらないのが、この若きスラッガーの真骨頂だ。祖父江との対戦となった第4打席は、完全に詰まらされたものの執念の内野安打。特大アーチに引けを取らない、強烈な1打席となった。

 あと10年以上、村上と対戦するのかと考えると……。夜も眠れないくらい怖くなってしまうので、考えるのは控えよう。

 

異変

 遂にその時が来た。スコアボードに当たり前のようにあった名前がこの日はない。打撃不振に苦しむ京田陽太が先発メンバーから外れた。ショートを務めるのは今季初先発の三ツ俣大樹。チームの現状からすると、京田の代わりにショートを任せることができるのは三ツ俣しかいない。

 ただ、この日のヤクルトの先発は左の田口麗斗。待望の抜擢だが、試合開始前は三ツ俣にとって少々気の毒な起用となる予感がした。なぜなら、田口は左打者を苦にする投手だからだ。

 昨年まで所属した巨人時代のデータによると、昨シーズンの田口は右打者への被打率が235。その反面、対左打者になると.307に大きく跳ね上がる。要因としては、「チェンジアップ」の使い方の違いが考えられる。右打者の外角低めに沈める球種として用いるチェンジアップが、対左打者になると殆ど使わない球種と化してしまう。

 つまり、右打者よりも左打者の方が球種も絞りやすく、配球パターンも単調になりがちになる。スライダー、カーブ系の軌道と逆の球種が厄介に感じていただけに、果たしてこの日のスタメン起用が吉と出るのか。期待と不安が入り混じった中で、球審の右手が上がった。

 

仕事きっちり

 結論から言おう。この日の三ツ俣は、自らに課せられた仕事を完璧に遂行した。1回裏の第1打席は、エンドラン気味にキッチリと進塁打。続く打席では、難なく送りバントを決めて、4番・福田永将の先制適時打をもたらした。大砲不在に悩むドラゴンズ。本塁打を待ち望む気持ちは分かるが、村上や鈴木誠也(広島)が加入するわけではない。現有戦力でできることを今はやるだけだ。

 最初の2打席は繋ぎ役としてチームに貢献すると、第3打席では一転、田口の失投を強振。ストレートの失投を見逃すことなく、バットを振り抜いた打球はレフト線に落ちた。二塁を楽々陥れた背番号37が、この上なく眩しかったのは言うまでもない。

 さらに、この日の活躍はまだ終わりではなかった。第4打席で対峙するのは、右の梅野雄吾。スピードボールが売りの、田口とは全く異なるタイプだ。0-1からの二球目、三ツ俣のバットが一閃した。147キロのやや外角よりのストレートを、お手本のようなセンター返し。回の先頭打者として、攻撃の口火を切った。

 その後二進し、代走・高松渡が送られお役御免。「2番ショート・三ツ俣」は最高のエンディングを迎えた。声援を送ることができない状況ではあるが、多くの観客が心の中でスタンディングオベーションをしていたことだろう。

 

いざ決戦

 三ツ俣の大活躍によって、ドラゴンズのショートを巡る論争が活発になることだろう。しかしながら、レギュラーを奪うことは並大抵のことではない。何せ相手は、ルーキーイヤーの2017年からほぼ全試合ショートに君臨する名手。このまま易々と定位置を譲るつもりはないはずだ。

 最後に、ドイツの伝説的なサッカー選手のフランツ・ベッケンバウアーの格言を紹介したい。彼は、トータルフットボールでサッカー界を席巻したヨハン・クライフ率いるオランダ代表とW杯の決勝で対戦した際に、このような言葉を残している。

 『強いものが勝つのではない。勝ったものが強いのだ。』

 さあ、どちらが強いかグラウンドで決着を付けよう。(k-yad)