ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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「やる気のない」広島にやられた……「ある日」のダブルヘッダー奇譚

 昨年、コロナ禍で開幕が延期になった際に “つなぎ” として連載した『ある日のドラゴンズ』という企画を覚えていらっしゃるだろうか。

 過去シーズンの、ランダムで思い付いた日付をピックアップし、その日行われた試合について振り返るというこの企画。

 いわゆる後世に語り継がれているような有名な試合ではなく、誰も憶えていない、なんなら選手本人も憶えていないような、過ぎ去りし「ある日」へのタイムスリップは非常に好奇心を刺激する作業だった。

 昨年6月の開幕をもって一旦は終了したが、歴史に埋もれた昔の試合をもっともっと掘り起こしてみたいーー。野球を見ていたらそんな欲望が湧いてきたので、今年も試合の無い日などを使って不定期で掲載していこうと思う。

 『ある日のドラゴンズ』第二期、さっそくお楽しみいただこう。

 

1973年8月18日vs広島18,19回戦

 ひいきが勝った日は天にも昇る気持ちでやすらかに安眠できるが、負けた日には逆に何もやる気が起きないほどヘコみながら不貞寝する。多くのプロ野球ファンにとって、シーズン中は毎日がジェットコースターに乗っているようなものであろう。

 ところが昔は、こうした感情の起伏が一日の間で巻き起こることがあった。今や死語といっても差し支えないだろう、「ダブルヘッダー」である。

 連勝でもすれば、それこそ飛び跳ねたくもなるのだろうが、連敗したときは大変だ。何しろ、ただでさえショックな敗戦を半日の間に二度も食らうのだから、食事も喉を通らなくなるほど衰弱しても不思議ではない。

 厄介なのが1勝1敗で、喜んでいいのやら落ち込んだ方がいいのやら。48年前のドラゴンズファンも、きっと微妙な心境でこの日の夜を迎えたに違いない。

 

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△1973年8月19日付1面

 

 3連戦の大事な初戦の先発を託されたのは、“ちぎっては投げ” で知られる松本幸行。試合を短く終わらせることに生きがいを持っている左腕は、この日も鯉の群れを手際よく捌いていった。

 8回まで散発7安打。得点圏にランナーを進めても要所を締め、0行進のままあっという間に最終回を迎えた。

 一方の後攻・ドラゴンズ打線は2回に6番・島谷金二のソロアーチで先制すると、3、5回にそれぞれ3点ずつ奪い、早くも試合の趨勢を決めてしまった。ちなみに島谷は、今季15本のうち11本が広島から打ったもの。だから中日スポーツ1面も「キラー島谷」なのである。

 さてこうなると、あとは松本がいつも通りのクイック投法でサクサクと試合を畳むだけだ。

 ダブルヘッダーに備えて主力をさっさと引っ込めたため、グラウンドに残っていたスタメン選手は松本、木俣達彦、島谷の3人だけ。いかにドラゴンズベンチが余裕綽々だったのかが分かる。

 結局9回も1安打されながら危なげなく後続を抑え、松本は8勝目を今季3度目の完封勝利で飾った。時間にしてわずか2時間25分、さすがの早技だ。試合後のコメントがまた憎たらしい。

 「向こうは何か、だれてしもうてやる気が見えなんだ。ベンチにいてもイライラしたよ」

 いま、どこかの選手が同じことを口にしたら、炎上どころの騒ぎでは収まらないだろう。たしかに5連敗中の広島はこの試合でも3エラーと精彩を欠いたのは確かのようだが、こんなにもド直球で貶すあたりが当時の大らかさというか。隔世の感を禁じ得ない。

 ともかく気楽に見ていられる快勝に、近藤貞雄コーチも「何か、こう、ぐわっと投打が噛み合った。たまにはこんな試合もやってみたいよ」とすこぶる上機嫌だったという。

 

踏んだり蹴ったりの第二試合

  ところが、である。第一試合終了からわずか20分間のインターバルを挟んで始まった第二試合に落とし穴が待っていた。

 幸先よく先制したまでは良かったが、2点リードで迎えた5回表に暗転。いわく「飛ばしすぎた」という先発・星野仙一がヒックスのソロなどで同点に追いつかれると、そのまま互いに譲らず試合は延長戦に突入した。

 8回から投げていた三沢淳は3イニングをパーフェクトに抑える好投をみせたが、4イニング目の11回1死、三村敏之の痛烈なピッチャー返しを右手親指の付け根に当てて降板を余儀なくされた。すると急遽登板した稲葉光雄がヒックスに今日2発目のソロを浴び勝負あり。

 前の試合に勝ち、せっかく阪神と同率首位に並んだばかりだというのに、負けたうえに怪我人が出たんじゃ喜びも半減だ。何よりもつい数時間前まで「やる気が見えない」とまでこき下ろした広島にやられたのだから、そのショックは計り知れない。

 再び近藤コーチ談話。「痛いよ。本当に痛い。今日の負けはシーズンの痛いことではベスト3に入るよ」。顔を真っ赤にして、そう吐き捨てたという。

 さっきまで上機嫌だったのとはまるで対照的な憤怒の相。これがダブルヘッダーの怖さである。

 ちなみに三沢の怪我は大事には至らず、一週間ほど休んだのちに復帰。入団2年目にして初の二桁勝利をマークしている。

それではまた、ある日どこかで。

 

1973.8.18

第一試合◯中日7-0広島

第二試合●中日2-3広島