ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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剣が峰

●0-1×阪神(2回戦)

 ただただ勿体なかった。福敬登が投じたインコースへのスライダーが若干甘くなったところを、阪神の伏兵・山本泰寛のバットが一閃。打球は前寄りに守っていたセンターの頭上を超え、17個のたこ焼きに爪楊枝が付いた。

 プロ野球は勝ち数ではなく、あくまでも勝率を競うものだけに、我慢比べに敗れたのは痛い。特に今シーズンは、9回で打ち切りとなるレギュレーションとなっていることからも、「負けない野球」を実践する意味は大きなものとなることが予想される。

 1勝1敗の5割と1勝1分けの10割の差が最後に影響しないことを祈るばかりだ。

 

がっぷり四つ

 後味の悪い敗戦の中での明るい材料は、柳裕也の好投に尽きる。オープン戦から打ち込まれる場面が目立ち、結果を残せず迎えた前回のシーズン初登板も4回3失点で敗戦投手となっていた。

 この日の登板は正に正念場。仮に打ち込まれてしまったら、先発ローテーションを外されるどころか、ファームでの再調整を命じられても不思議ではない状況だった。

 今シーズンの行方を左右するといっても過言ではない大一番で、背番号17は阪神に本塁を踏ませない一世一代の投球を見せた。8回を投げ、浴びた2安打はいずれも内野安打。与えた四死球は0と文句なしの内容だった。オープン戦時から気掛かりだった球数の多さも、この日はわずか95球。これまでとは全くの別人だった。

 とりわけ疲れが出るであろう7回と8回の投球には頼もしさを覚えた。ストレートに加え、柳特有の縦のカットボールとカーブ、今シーズンから使い始めたシンカーを組み合わせ、打者6人を相手にパーフェクト投球を見せたのだ。

 対戦する打者を次々と料理する様は、まるで横綱が若い力士を稽古場で軽くあしらうかのよう。9回表に打席が回ってくることから、この日の最後の打者となることが確実だった梅野隆太郎に対しては、渾身の「上手投げ」。最後は外角低めのカットボールに手を出させなかった。

 勿論、両軍のゼロ更新は柳だけではなく阪神・青柳晃洋によるバットの芯を外す投球術あってのことだ。勝敗を度外視したうえで、白熱した投手戦を繰り広げたライバルにも最大級の賛辞を贈りたい。この日の青柳の投球内容なら、いくら相手打線を抑えても勝ち目はなかった。如何せん点数が入る気配がないのだから。

 

「投げない部分」の仕事

 柳がたこ焼きを8個並べることができた要因としては、ストレートの球威が状態の良い頃に戻ったことが考えられる。とはいえ、柳の球速は速くても140キロ台後半。ほとんどは140キロ台前半だ。昨今のNPBでは、当たり前のように150キロ台のボールを投げる投手が大勢いる。そして、高校生で150キロを記録する投手でもドラフト会議で指名漏れする時代でもある。球速に課題を抱える投手にとっては、受難の時代となっている。

 圧倒的な出力があるわけではないものの、フィールディングや牽制、バントを含めたトータルでチームを勝たせるこの右腕の活躍が、どれだけ出力不足に悩む投手の励みになるだろうか。勿論、球速や回転数を上げるトレーニングによって効果を実感している投手も大勢いるのも事実だが、投げること以外に多く引き出しを持った投手がもっと登場しても良いはずだ。

 投手の武器はボールの速さばかりではないことを、柳はこれからもその右腕で証明する。

(k-yad)