ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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新しい時代へ

○2-0DeNA(24回戦)

 まるで優勝決定戦のような緊張感だった。勝てば8年ぶりのAクラス入りが確定する今日の試合。マウンドには満を持してエース・大野雄大が上がった。

 数字上は例え今日負けても残り2試合で中日が一つでも勝つか、DeNAが一つでも負ければAクラスは決まる。しかし、この長い長い戦いに終止符を打つのは今日だと確信していた。大野が投げる以上、負けるわけにはいかない。エースが投げるというのは、そういうことだ。

 

大野抜きのラスト2イニング

 18時。プレーボールがかかった。初球は外角低めへのストレートが決まり、まず1ストライク。いつもより張り詰めた空気のナゴヤドームに乾いた拍手が鳴り響いた。3球で追い込み、4球目をバッターが打ち損じた。なんでもないショートゴロ。しかしこれを京田陽太が捕り損ね、さらにファーストへの送球が乱れた。もちろん記録はエラーだ。

 この“らしくない”プレーを目にし、いつもより硬い選手の動きが気になった。丁寧すぎるというか、慎重すぎるというか。それは守備陣だけでなく大野の投球もそうだった。伊藤裕季也から三振を奪うのに7球を要したり、2回表もランナーを二人背負ったり。なんだかんだで要所を締めるあたりは流石だが、普段どおりの投球ができていないことは明らかだった。

 なんだか全ての打者がAクラスを阻む関門に思えてきて、自然と手のひらに汗がじわりと広がった。最初のうちは、イニングが進むにつれて硬さも取れてくるだろうと思っていたが、1点を先取したことで緊張感は「逃げ切らなければならない」という重圧に代わって押し寄せてきた。

 それでも毎回ランナーを出しながら、悪いなりに大野はスコアボードに「0」を刻んでいった。今にも爆発しそうな活火山になんとか蓋をしているような投球だが、それでも抑えるのがエースたる所以だろう。だがそんなエースも5回途中に身体に変調をきたしていた。1死二塁で細川成也から渾身の見逃し三振を奪った際、足を気にする素振りを見せたのだ。

 すぐに阿波野コーチがマウンドに向かったが、大野は笑顔をみせて続投OKをアピールした。しかし、いつものように完投完封ができないことはこの時点で何となく察しがついた。

 そして試合は最少リードを保ったまま8回に突入した。もうオーダーに大野の名前はない。大野抜きでのラスト2イニング。8年ぶりのAクラスへ、最後の試練が始まった。

 

伝えたい言葉

 先頭にヒットを許しながら、ロペス、オースティンという凶悪な並びを見事に抑えて「0」のバトンを繋いだ又吉克樹がベンチに帰ってきた。仕事を果たし、さぞかしホッとしたような笑顔を浮かべるかと思いきや、又吉の表情は最後まで異常に強張ったままだった。急死に一生を得たときのような、精神を擦り減らした表情だ。

 この又吉の表情から、この一戦がどれほどまでに特別で、選手達が異常な重圧を抱えながら戦っているのかを垣間見た気がした。8年間にも及ぶ長いトンネルの出口はすぐそこまで見えている。ボロボロになりながら、地を這う想いで一歩ずつ近づいていく。9回表、ラストイニングを託されたのは背番号「33」、もちろん祖父江大輔だった。

 迫力ある顔つきは平常運行だが、やはり祖父江もまた、いつもにも増して鬼気迫る表情でマウンドに上がっていた。一球ずつ、魂を込めるように右腕を天に向けて掲げる。だが相手もしぶとく、各打者が粘りに粘って祖父江を苦しめる。「あと1球」のコールがこだまする中、神里和毅が10球粘った末にツーベースを放った。二、三塁。一打同点の局面が訪れ、打席には中井大介。

 その5球目、渾身のスライダーにバットが空を切った。終わったーー。祖父江は軽くガッツポーズを作ったあと、喜びよりも安堵したような表情で「よっしゃ……」と声を絞り出した。

 

 この瞬間、中日ドラゴンズの歴史上、最悪の暗黒時代が遂に終焉を迎えた。今さら誰かのせいにする気も、嫌な思い出を振り返る気もない。ただ、とにかく苦しい8年間だった。何度もファンを辞めようと思った。ひたすら怒りとやるせなさ、情けなさに支配されそうになった。それでもめげずに応援してきたことが、今日やっと報われた。

 最終回、テレビカメラはまるで優勝目前のそれのように、守備位置に付く選手達を一人ずつ抜いていった。高橋周平、京田陽太、大島洋平、平田良介。ベンチで見守る大野雄大、又吉克樹、そしてマウンド上の祖父江大輔……。みんな、暗黒時代をどっぷり経験してきた選手達だ。

 チームを本気で変えるときは、大規模な血の入れ替えか、もしくは大型補強を行うのが一般的な変革の方法だ。だが中日にはそれができない。つまり現有戦力を鍛えるしかないのだ。不可能かと思われたこのミッションを、与田監督率いる現政権はわずか2年間で成し遂げてみせた。見事な手腕である。

 しかし拍手を贈るべき真のウィナーは、やはり選手達であるべきだ。本当に強くなった。本当に頼もしくなった。伝えたい言葉は山ほどあるが、今はただ、この一言で十分だ。

 「ありがとう」

 中日ファンであり続けて良かった。長いトンネルの先には、新しい栄光の時代が待っているはずだ。今、その入り口に立っていることを心から喜びたい。