○5x-3阪神(21回戦)
「♪ 願いよかなえ いつの日か そうなるように生きてゆけ」
B'zの『ねがい』というヒット曲の一節である。私を含めてプロ野球ジャンキーは、この歌のように願いを叶えるために日々慎ましい努力を重ねながら生きている。誰に言われるでもなく。
たとえば昼食をどこかに食べに行くとして、本当はカレーを食べたいけれど、こないだカレーを食べた日に中日が負けたから今日はラーメンにしておこうとか、このワイシャツを着た日は勝率が高い(気がする)から多少よれてても今日は着ていこうとか……。
誰にも気付かれないし、たぶん効果なんか無い。だけどやらずにはいられない。何千、何万というファンがそれぞれのささやかなゲンを担ぎながら、中日の勝利を心底願っているのだ。
そんな風に生活をちょっとだけ窮屈にしながら暮らしているというのに、この8年間努力が報われることなんか、まるで無かった。大して食べたくもないラーメンを、ただ勝って欲しい一心ですすっても、待っているのは残酷な現実ばかり。いい加減愛想を尽かせば良いものを、あろうことか「帰りにいつもと違う道を通ったのが良くなかったのでは」とか言って、自分のおこないを責めたりするのだから救いようがない。
いったい何が悲しくて、そこまでして野球の応援をしなくちゃならんのか。たまに本気でそう思うこともある。苦しみの方が圧倒的に多い、修行のような趣味。
今日の試合だってしんどい事ばかりだった。9回2死、奇跡のラストシーンを迎えるまではーー。
ついに来た! 劇的フィナーレ
4回裏の攻撃が終わった直後、ソイロ・アルモンテが太ももの辺りを気にしながらベンチの奥へと消えた。元々爆弾を抱えていた股関節を走塁時に痛めたようだ。21試合連続ヒットのポイントゲッターを欠くのはチームにとっても痛すぎる。
すると8回表、無敵の祖父江大輔がリードを守りきれず、残り2イニングを残してまさかの逆転を許した。いわゆる不敗神話はいつか止まるものだ。ここまで頑張ってきた祖父江を責めるファンなどいるはずもない。しかし、よりによってアルモンテが負傷交代したこの日というのが、妙に気持ち悪かった。
必勝パターンとアルモンテ。最近の快進撃を支える投打の要が崩れ、今日を境にして再び闇のなかを彷徨うことになるのではないか? どうしてもネガティブにしか考えられないのは弱いチームのファンならではの習性だろう。
8回裏のチャンスも活かせず、試合はいよいよ最終回。京田陽太と遠藤一星の粘りでなんとか二、三塁の局面を作ったが、何しろ2アウトである。この8年間、同じような状況は何十回と見てきた。そのたびに高鳴る鼓動を抑えつつ、来るべき劇的フィナーレに備えてきた。
しかし、いつも最後に出るのは歓喜の雄叫びではなく溜息だった。あと一本が出ず……を何度見たことか。だから今日もドキドキしながらも、その一方で「どうせ」と思っている卑屈な自分がいた。
打席には高橋周平。申告敬遠かと思いきや阪神サイドは勝負を選んだ。カウント1-1、スアレスが投じた3球目。159キロのストレートを捉えた打球は、前の2打席と同じようにレフト上空に高々と舞い上がった。だけど今回は、あきらかに角度が違う。懸命に追う左翼手。ぐんぐんと伸びる打球。スタンドへの到達を待たずに、もう結末は分かっていた。
逆転サヨナラ3ラン。信じられなかった。こんな結末、もう何年も見た覚えがない。それもそのはず、中日の選手が逆転サヨナラホームランを打つのは2012年6月8日楽天戦の和田一浩以来、実に8年ぶり。つまり連続Bクラスの最中には一度もなかったわけだ。
先述の問いかけに戻る。「いったい何が悲しくて、そこまでして野球の応援をしなくちゃならんのか」。そんなもん、こういう歓喜を最大限に味わうために決まってんだろ! と今はテンション高めで答えられる。
だが、8年分のカタルシスに浸るのはまだ早い。残り20試合の先に、もっと最高のフィナーレが必ず待っているはずだから。それまでは意味のないゲン担ぎを粛々と続けていこうと思う。今年こそ、願いよ叶え!