ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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贔屓のエースが怖い

○3-0阪神(20回戦)

 圧倒的な力を持つ者に対して、人は尊敬を通り越して畏れを感じるものだ。2010年代の大相撲で文字通りの無敵を誇った横綱・白鵬は、あまりの強さゆえに嫌われ、妬まれ、挙げ句の果てには「礼儀がどうのこうの」とつまらないイチャモンを付けられながらも、土俵に立てば誰よりも強く、尊い存在であり続けた。

 その割に「白鵬が好き!」という人にあまり出会わないのは、国籍もあるにせよ、あまりに超越した強さへの畏怖とそれに対する反発がどこかにあるからではないだろうか。

 人間を超えた存在を、我々は “人外” とか  “モンスター” と呼ぶ。どちらもポジティブなニュアンスではあるものの、どこか一歩引いた冷たさを感じる表現だ。そして中日のエースもまた、その域に足を踏み入れてしまったのかもしれない。

 9度目の完投勝利を今シーズン5度目の完封で飾り、防御率も菅野智之を抜いて1点台に突入……。怖い、怖いよ、大野雄大。どこまで凄くなっちゃうんだよ。4連勝や2位になれた喜びより、今はただ、進化しすぎた贔屓のエースが怖くて仕方がない。

 

勝つのは当たり前

 立ち上がりこそ完璧な投球をみせたが、序盤は割と苦労している印象を受けた。要した球数は2回19球、3回15球、4回15球。青柳晃洋への四球など、大野らしからぬ余計なボールも目立った。この時点で58球。多くはないが、少なくもない。今までの完封で見せたような、一分の隙もない投球では無かったと思う。

 しかし味方が早い段階で2点を取ったため先制献上のプレッシャーが消え、投球に集中できる状況になったことで大野の内の “モンスター” が今夜も遂に目覚めた。5回表をわずか4球で乗り切ると、その後のピンチらしいピンチは6回表の1死二塁だけ。

 そこもゴロ二つで難なく切り抜けると、あれよあれよと言う間に今夜も8個のゼロを刻み、最終回を残すだけになった。ここまでわずか91球。序盤にバタついたのがウソのような省エネでマウンドに仁王立ちである。

 100球未満での完封も見えてきたなかで、9回も7球で2アウト。しかし4番大山悠輔がヒットで意地を見せると、ジャスティン・ボーアへの初球、高めの甘いコースを捉えた特大ファウルには肝を冷やしたファンも多かったはずだ。仮にスタンドインしてもリードしていることに変わりはないが、もはや大野は勝つのは当たり前で、完封できるかどうかだけが焦点になる投手だ。

 結局ボーアには鋭い打球のヒットでつながれ、一、三塁とピンチは拡大したが、最後は梅野隆太郎をフォークで料理してゲームセット。土俵際まで追い詰められても動じないのは、まさにエースの貫禄といえよう。

 

「そりゃ大野ですよ」

 何年か前、ラジオのインタビューだったと記憶しているが、吉見一起が次期エースの候補について聞かれ、「そりゃ大野ですよ。投げてるボールが違う」と答えたのが印象に残っている。

 その時はちょうど大野が低迷し始めた頃で、「なんだよ、(当時売出し中の)小笠原慎之介じゃないのかよ」とガッカリしたものだが、今になって吉見の審美眼の正しさがはっきりと証明された。いや、吉見でさえも、まさかここまでの進化は想像していなかったのではないだろうか。

 悪魔と契約でもしたのかと思うほど、7月末から急速な進化を遂げた今シーズンの大野。ここがピークなのか、もっと凄くなるのか。底知れなさが怖い。

 怖いといえば、1ヶ月後に訪れるオフシーズン。果たしてモンスター・エースは、どれだけの “条件” を提示すれば残ってくれるのだろうか。今から怖くて仕方がない。