ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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憂鬱、恍惚、憤怒

●4-8巨人(19回戦)

 「好事魔多し」ーー昔の人はつくづく上手いこと言うものだ。5連勝で借金も2に減らし、3位を射程圏に捉えた。さあ残り37試合、悲願のAクラス入りへと駆け上がろうぜ。今シーズン最高潮のムードでいざ首位・巨人討ちへ!

 ……だが現実はそう甘くはなかった。試合前、ソイロ・アルモンテの母親の急逝という悲報が届いた。死因はコロナによる合併症だという。通常なら一週間程度の帰国となるところだが、コロナ禍とあってそれも叶わない。ただでさえショックな突然の訃報に加えて、最期の別れにも立ち会えないのでは精神的な動揺が生じるのは仕方ないことだ。

 好調アルモンテ抜きで戦うのはしんどいが、残ったメンバーで食らいつくしかない。試合は初回から1点を先取する幸先の良いスタート。しかしその裏、ライトの守備に出てきたのは二塁打を打った平田良介ではなく、遠藤一星だった。ファンの顔が一瞬にして青ざめた。平田といえば長い長いスランプを抜け、ようやく本来のバッティングを取り戻したばかり。直近5試合で16打数9安打と5連勝の立役者ともいえる活躍を見せていた。

 その平田が離脱となれば痛いなんてもんじゃない。今後はもちろん、いま目の前でおこなわれている試合を見ても両翼を井領雅貴と遠藤が守るという状況はあきらかにマズい。

 さらに悪いことは重なるもので、先発・柳裕也は前回の阪神戦同様、いやそれ以上に絶不調。いきなり3連打を食らってリードを吐き出すと、その後も面白いように打たれ、2回には試合を決定づける3ランを浴びてしまう。2回6失点。擁護のしようもない内容で早々とマウンドを降りた背番号「17」には、昨年の輝きはもう宿っていない。

 期待が大きければ大きいほど、うまくいかなかったときの憂鬱も深くなるものだ。5連勝中とは思えないほど暗い気分に襲われ、思わずその場にへたり込んでしまった。

 気分はまるで『フランダースの犬』のあのシーン。希望も何もない。もはやこれまでか……と思ったその時だった。光が、眩いばかりの光が、一人の若者のバットから鮮やかに放たれたのである。

 

セオリー通りの石垣交代

 3回表。柳に代わって打席に立ったのは、石垣雅海だった。その2球目。見逃せばボールかという高めに浮いたカットボールを目一杯の力で振り抜くと、打球は高弾道で舞い上がり、レフトスタンドの前列へとあっという間に吸い込まれていった。打った瞬間それと分かる記念すべきプロ初ホームランだ。

 遂に出た。これが石垣だ。試合に出られない鬱憤を晴らすかのような一撃。これが見られただけでも今日は十分だ。本気でそう思えるからやっぱり石垣は特別な存在なのだ。

 ただ、残念だったのはその後だ。投手の代打として出たからには薄々こうなるだろうとは予想していたが、それでもいざ交代を目の当たりにすると心底ガッカリした。4点を追いかける展開で、ホームラン を打てる選手を引っ込めてどうするんだ⁉︎

 さっきまでの恍惚から一転、今度は憤怒が押し寄せてきた。たしかにセオリー通りではある。最初から次の投手は9番に入れると決めていたのだろう。打順の巡り合わせ的にも妥当かもしれない。

 だが代打石垣はホームランを打ったのだ。しかも両翼を守るのはアルモンテと平田ではなく、井領と遠藤だ。若い力を試すには絶好の機会だと思うのだが、石垣はこの打席でお役御免になった。

 なぜだーー。おニャン子クラブ会員番号25番、吉沢秋絵のソロ曲『なぜ?の嵐』が頭の中で鳴り響く。7回無死一、二塁で京田陽太にバントを命じるくらいには首脳陣も試合をあきらめていなかった。そこまで勝ちに執念をみせるなら、セオリーに準じるよりも若者の勢いに賭けても良かったはずだ。

 試合の展開を一発で変えることができるホームランの可能性を排除してまで、セオリーというのは重きを置くべきものなのだろうか。どうしても本末転倒に思えてならない。

 アルモンテは数日間の休養が必要とみられ、平田は負傷。さて明日、外野のスタメンに誰が出てくるか。これで石垣の名前がなければ、私は泣く。