ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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意識の次元が違う

○3-0ヤクルト(17回戦)

 「今日の○○には3点あれば十分でした」みたいな表現をスポーツニュースでよく耳にするが、大野雄大に関してはアルモンテのソロが出た時点で勝ったも同然。まさに「1点あれば十分」という投球で今シーズン三度目の完封勝利を飾った。

 得点圏にランナーを進めたのは初回の2死一、二塁だけ。2回に西田明央にヒットを打たれて以降は22者連続でアウトに抑え、先発全員奪三振のおまけ付き。さらにリーグ最速でシーズン100奪三振に到達。完全無欠のスーパーエース健在をこれ以上ない形で見せつけてくれた。

 ちょうど一週間前の広島戦では4回4失点でKOされ、夏を通じて続いていた完投記録も遂に途切れてしまった。秋の訪れと共に無双モードともお別れかと心配されたが、杞憂だったようだ。なんなら今シーズンの全登板のなかで最も安定していたかもしれない。

 

狙って三振記録を止めた?

 圧巻だったのは3回2死から始まった6者連続三振だ。140キロ台後半のストレートと130キロ台のツーシームを使い分ける投球術にヤクルトの各打者は翻弄され、バットに当たる気がまったくしないほどだった。山田哲人や村上宗隆でさえ捉えきれないのだから、スタメンに並んだ若燕(と表現するのかどうかは知らないが)が攻略するには厳しい相手であったのは言うまでもない。

 ただ、三振は狙って獲ろうとするとどうしても球数が嵩むという難点もある。現に6者連続三振の間も29球を投じており、完投完封を狙うならペース配分を考える必要もある。

 ここで打席に迎えたのは投手の石川雅規。その気になれば簡単に連続三振の記録を伸ばすことはできたはずだが、なんと大野が初球に投じたコースはど真ん中。それも142キロ、打ちごろのストレートである。ほとんど本能に近い形で石川もバットを出し、これがショートゴロとなってあっさり記録は途絶えたが、打ち取ったあとの大野の“したり顔”を見ても、どうも意図的に打たせたように思えてならなかった。

 三振を獲るなら最低3球は投じなければならないが、この回すでに13球を消費している。三振記録よりも最後まで投げ切ることを優先し、敢えて初球を打たせたとしか思えないのだ。ストライクを投げるのにも窮していたかつての大野ならあり得ないが、今の大野ならそのくらいクレバーに考えていてもおかしくはない。そして考えるだけではなく、実際に思い通り術中にはめる技術も持っているのがこの男の凄いところだ。

 

大野の登板はあと6、7試合か

 7回までに11三振を奪い、味方も3点の援護をプレゼントした。こうなれば狙うは完封のみ。8、9回は2イニング合計24球(三振ゼロ)の省エネ投球で危なげなく試合を締め括った。結果的には122球の完封劇だが、もし三振に固執していればもっと球数は増え、9回のマウンドには別の投手が上がっていたかもしれない。

 昨日の試合後、与田監督は報道陣との受け答えのなかで「明日は大野が一人で投げきってくれると思います」と“完投要求”とも取れる発言をしている(『中日スポーツ』9月22日付3面「龍の背に乗って」より)。おそらく本人にも似たようなニュアンスの言葉を伝えていたのだろう。

 石川への初球や終盤の省エネなど、今日の大野は明らかにそれを意識して投球をしていた。もちろん誰にでも出来るものではない。セ・リーグでは大野と菅野智之くらい。ドラゴンズの歴史を紐解いても、このレベルの投手は10人もいないはずだ。

 今シーズンも残り38試合。順当にいけば大野の登板はあと7回あるかどうか。竜が誇るスーパーエースの投球を今のうちに目に焼き付けておきたいと思う……深い意味はないけど。