ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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悲願ならずも抜群の福谷

○4-1阪神(14回戦)
 福谷浩司のエース化が止まらない。

 前回は首位巨人相手に8回2失点の好投。試合は引き分けで白星こそ付かなかったが、このカードの3タテを阻止した功績は計り知れない。あの時もチームは3連敗中と雰囲気は悪かったが、奇しくも今回も3連敗中。しかも首位とのゲーム差は絶望的なラインまで離され、来シーズンに向けた若手登用に舵を切るべきだという意見がファン、そしてOBの間からも噴出している状況である。

 つい先週まではAクラスの尻尾を掴んだと息巻いていたものの、あっという間に最下位ヤクルトの足音が聞こえてきた。連日注目を集めるスタメンは今日も変更がなく、お馴染みの『スポ音』では采配に対する痛烈な投稿が多数紹介された。

 すかさず『東京スポーツ』も「追い込まれた中日・与田監督に異変! ついに個人攻撃を解禁」という与太記事を掲載するなど、“三ツ間事件”があった7月以来となる中日disを再開。まさに雰囲気は最悪。ここで連敗が伸びればズルズルと泥沼にはまってもおかしくはない。そんなわけで今日の試合は、今後を占う上でも地味に重要な一戦だったのである。

 

悲願の完封・完投ならず

 ところがプレイボールから5分も経たずにドラゴンズはいきなり劣勢に立たされた。先頭・近本光司のツーベースと陽川尚呼への死球で無死一、二塁。安定感には定評のある福谷でさえ連敗の流れには抗えないのかーー。そう下を向きかけたが、相手のバントミスにも助けられて福谷はこのピンチを無失点で切り抜けた。

 さらに2回はボーアのツーベースで無死二塁とするも、ここもストレートとツーシームで押して得点を許さず。得点圏被打率.143はダテではないことを見せつける投球で序盤を乗り越えると、あとは福谷の独壇場だ。4回には待望の援護点が3点一気に入り、気持ち的に楽になった面もあるのだろう。付け入る隙さえ与えない投球で凡打の山を築き、気付けば試合は終盤3イニングを残すのみ。

 いざとなれば無敵のリリーフ陣が控えているので、勝利はもはや手中に収めたようなもの。関心は福谷の完投・完封へと移行していた。今までも狙えるチャンスは何度もあったが、足が攣ったり右足に不調が発生したりで途中降板するケースに相次いで見舞われ、未だに最後まで一人で投げ抜いた経験はない。

 無念の降板となった9月3日の広島戦ではひと目も憚らず号泣。間違いなく今、チームで一番完投にこだわっている投手である。だから今日こそは行けると思ったし、首脳陣も行かせるつもりでいたのではないだろうか。しかし101球目、坂本誠志郎の打球が右足に直撃し、またしても夢は果たせずに終わった。

 

ニュー福谷は制球力抜群

 アクシデントが起こるのは、いつも7回か8回。ここまで来ると野球の神様が敢えてストップをかけているようにも思えてくる。無論、この投球を続けていればそのうち完投できる日も訪れるだろう。それよりも驚くべきはリリーフ時代と比較して、その投球内容の変貌っぷりである。

 福谷といえばリリーフ時代の印象は典型的なパワーピッチャーというもの。最速157キロのストレートと引き換えに制球はアバウトで、いわゆる安定感とは程遠い出たとこ勝負の投手だった。しかし先発転向後は球速を140キロ後半まで落とし、制球を第一にした投球を心がけていることがデータからはっきり読み取れる。何しろ8試合52イニングを投げて与四球はわずか5個。以前の福谷ならヘタすれば1イニングで出していた数だ。

 この日も初回と2回にピンチを背負ったが、後続の打者に投じたボールはすべて140キロ台に留まった。その代わり、コーナーを丁寧につく投球で打者を翻弄した。もう「行方はボールに聞いてくれ」とばかりに157キロのストレートを真ん中高めに投げ込んで痛打を浴びる、あの日の福谷ではないのだ。

 今こうして生まれ変わったニュー福谷を見て、あらためて思う。なぜこれまでの監督は頑なにリリーフ起用にこだわったのかと。もっと早く先発に転向していれば……、どうしても悔いが残るのは私だけではないはずだ。