ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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マスター阿部は正念場

●3-6広島(16回戦)

 「先発ピッチャーというのはいつも緊張して、何かしら不安があるものなんです。特に立ち上がりの初回で、おちついて投げたことはないですね」

 『ほぼ日刊イトイ新聞』のインタビューで山本昌は先発投手の心情についてこう答えている。現役を32年間続けた昌さんですら「落ち着いて投げたことはない」と吐露する立ち上がりの難しさ。そういえば工藤公康も似たようなことを言っていた記憶がある。

 立ち上がりは先発投手にとって永遠の課題。それは6試合連続完投中の大野雄大とて例外ではない。味方の3者連続三振を見届けてマウンドに上がった初回、先頭の大盛穂に内野安打を許すと、あれよあれよという間に3連打を浴びて1失点。さらに一、三塁から鈴木誠也の3ランが飛び出し、なんと打者4人との対戦で4点を失ったのだ。

 先週から火曜日の登板を任されているのは菅野智之とのマッチアップを実現させるためではなく、カード初戦を確実に取るためという意味合いが強い。その点ではエースがこういう崩れ方をするのはもちろんショックではあるが、どちらかといえば「ま、こんな日もあるよね」と割り切れる打たれ方だったと思う。

 たとえばイニングを追うごとに球速がどんどん落ちるとか、明らかに球が高いとかなら心配にもなるが、エアポケットにハマり込むような立ち上がりの連打は先発投手にとって宿命のようなものだ。昌さんや工藤も苦しんだ立ち上がりに、たまたま今日は大野がハマった。ただそれだけのことである。

 

“阿部下ろし”の機運

 

 先輩の失敗を全力でカバーするのが若手の役目。少しでも体育会系気質のある部活や会社に所属したことのある人なら、宴会でダダ滑りした先輩の名誉を守るために決死の一発芸をかました経験が一度や二度はあるはずだ。

 大野さん、今まで助けてもらった分、今日は俺たちがなんとかするんで見ててください!

 そんな『マッドマックス 怒りのデスロード』ばりの「俺を見ろ!」マインドを打線には期待したのだが、残念ながらそこにあったのはいつも通りの凡打、拙攻の山だった。

 最大のチャンスは4点を喫した直後の2回表にやってきた。ビシエドが歩き、高橋周平がセンター前ヒットで繋いで無死一、二塁。ここで1点でも返せれば俄然、試合は分からなくなる。反撃の狼煙を上げられるかどうかのターニングポイントだ。しかし阿部寿樹が併殺打に倒れ、京田陽太はセカンドゴロ。反撃ムードはわずか3球で一気に萎んでしまった。

 今シーズンの貧打を象徴するこの二人。打率は仲良く2割3分台と低空をさまよっている。これでは下位打線で得点するのは難しい。特に阿部がここまで深刻な不振に陥るとは想定外だった。序盤はそれなりのペースで出ていたホームランも8月19日を最後に出ておらず、OPSは.671とスタメンで出場し続けるのも無理があるような数字に落ちてきている。

 もっとも溝脇隼人や堂上直倫といったライバルの突き上げも無い状態ではあるが、このまま残り44試合の大半をセカンド阿部で固定となると攻撃面はかなり厳しいものがある。成績もさることながら、阿部の最大の弱点は30歳という年齢だ。

 スタメンを勝ち取ったのは昨年だが、既にベテランの域に差しかかっている。根尾昂が一軍にアジャストし始めれば、たちまち “阿部下ろし” の機運は高まることだろう。

 6、7回には3本のホームランで一時は1点差にまで迫ったものの、最後はダメ押しを食らって惨敗。めずらしく1試合3ホーマーを打ったときに限って全部ソロという引きの悪さ。そして5番高橋と7番京田に挟まれて、リーグワースト3位66個目の三振を喫してうなだれる6番阿部の姿がやけに悲しく見えた。

 キャンプで長打を増やそうしたのが良くなかったのか、すぐにそれを断念して去年までの打ち方に戻したのが良くなかったのか。いずれにせよマスターが正念場を迎えているのは確かだ。

 

【参考資料】

『ほぼ日刊イトイ新聞』「おちつけ」は永遠の課題