ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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祖父江がつなぐバトン

○3-2DeNA(13回戦)

 久しぶりに冷や汗をかいた。

 9回裏、2点差でライデル・マルティネスが登場した時点で勝ったようなもの。あとは悠々と勝利の瞬間を待ち、ささやかに祝杯をあげるだけだ。そう思って余裕丸出しでキンキンに冷えた「氷結」のプルタブをプシュッと空けたのも束の間。初球を逆方向へ打ち上げた打球は、そのまま無人のライトスタンドへと吸い込まれていった。

 ライデルを信頼するあまり忘れていたが、ここは鬼門・横浜スタジアムだ。今シーズンの戦績は0勝6敗。いくら開幕が遅れたとはいえ、もう秋風が吹き始める時期だというのに未勝利はいくらなんでも恥ずかしい。しかし苦手には苦手なりのワケがあるのだ。

 浜スタは12球団の本拠地でも東京ドーム、神宮球場と並んでホームランが出やすいヒッターズパークとして知られており、しょっちゅう両軍のアーチがハマの夜空を飛び回っているイメージだ。

 ところが貧打に泣く今年のドラゴンズは、この浜スタでさえもまともに打てておらず、ここまで6試合で打率.202、2ホーマーという惨憺たる内容。一方で投手陣は防御率5.25、10被ホーマーとやられ放題だ。これでは全敗も当たり前だし、勝てというほどが無茶な話である。

 そんなわけで2点リードで最終回に入っても、心の片隅には恐怖がつきまっといた。するとソトの一発でたちまちリードが1点差に縮み、さらに1死から宮崎敏郎が、2死から乙坂智がつなぐ。さっきまでの余裕がウソのように「風雲急を告げる」的な雰囲気がたちこめてきた。

 果たしてライデルはこのピンチを抑えることができるのか。「氷結」を握りしめる手が、にわかに汗ばむのであった。

 

相次ぐピンチ

 

 冷静に振り返ると、ここまでリードを保ってきたのが奇跡のような展開だった。特に中盤以降は毎回のごとくピンチの連続。それを何とか凌いで、ようやく繋いできた血塗れのバトンである。

 6回裏はここまで好投をみせていた柳裕也がつかまり、1点を献上。さらに二塁打で1死二、三塁とされるも、大和をスライダーで三振に打ち取り、ソトを迎えたところで谷元圭介にスイッチ。タイミングを外すカーブを引っかけさせて絶体絶命のピンチを乗り切った。

 続く7回裏は福敬登がピリッとせず、いきなり四球、ヒットで無死一、二塁。今度こそダメかと思われたが、相手の犠打失敗にも救われてここも無失点で切り抜けた。しかしまあ犠打の際の三塁送球も決してベストなフィールディングとは言えず、ランナーの足がもう少し速ければ満塁だったかと思うとゾッとする。

  だが、綱渡りのような展開の中で1イニングだけ三者凡退に抑えた回があった。8回裏、任されたのは祖父江大輔である。この回を3人でピシャリと打ち取り、防御率も1.52まで改善した。登板順が7回ではなく8回だったことからも、首脳陣の信頼の厚さがうかがい知れる。

 かくして祖父江は入団7年目にして “不動のセットアッパー” と呼ばれる地位を確立したのだ。

 

今年は文句なし

 

  入団以来ずっと安定した成績を残してきたものの、僅差での不安定さといったメンタル面の脆さが災いし、一貫して敗戦処理とか、大きくリードしたときの “勝ちパターン休ませ要因” として祖父江は起用されてきた。そのため年俸も上がらず、ダルビッシュのツイートに端を発してちょっとした騒動になったのは記憶に新しい。

 だが今年は文句なしだ。祖父江がしっかりリードを守ってくれるからこそ、安心してライデルに9回を任せることができる。おかげで数年来の課題だったクローザー問題が解決されたのも大きい。

 9回裏、2死一、二塁で打席にはルーキー蝦名達夫。去年までなら、右中間を破る逆転サヨナラタイムリーが飛び出していたことだろう。それが浜スタという球場だ。しかしライデルは渾身のストレートを連発し、バットに当てることすら許さずに三振に切って取った。

 ライデルは凄い。あの投球はずっと見ていても飽きない。だがライデルが輝けるのも祖父江が無傷でバトンを渡しているからだということを忘れてはならない。