ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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悔し涙

○6-0広島(15回戦)

 このところキャッチャーを除いてほぼ固定メンバーで戦ってきたが、今日は久々に中軸を動かしてきた。アルモンテに代わって3番に入ったのは、福田永将だ。下肢のコンディショニング不良で抹消されたのが8月23日のこと。その間チームは3勝6敗と苦しみ、抹消当日に「1」まで減っていた借金も再び「5」まで増えた。

 イヤでも意識せざるを得ない福田の穴。アルモンテの攻守にわたる冴えないプレーを目の当たりにすると、散々いろいろ愚痴ってきた福田の存在が、いかにチームにとって重要だったのかをあらためて思い知らされた。

 福田がいないと何もできないわけじゃないとヤカンを火にかけたけど、紅茶のありかが分からないーーではなく長打の打ち方が分からない的な、「もう恋なんてしない」イズムに苛まれた10日間もようやく終わりだ。

 1回裏1死一塁。ジョンソンの甘く入ったスライダーを捉えた打球は大きな弧を描いて、いつもより眺めがいいレフトスタンド上段へと突き刺さった。打った瞬間それと分かる先制2ラン。登録されたばかりの福田がいきなり最高の仕事をやってくれた。もう福田なんていらない、さっさと石垣を使えなんて、言わないよ、ぜッ絶対……いや、たぶん。

 

福谷の涙

 

 打のヒーローが“福”田なら、投の主役はこの男しかいない。今日の“福”谷浩司には、リードが2点あれば十分だった。広島との対戦は今シーズン早くも3回目だが、対戦防御率0.77という相性そのままに今日も序盤からスイスイとアウトの山を築いていく。

 圧巻だったのは6回だ。ヒットとエラーで無死一、二塁とし、クリーンアップを迎えた場面。売り出し中の坂倉将吾には4球すべて内角を攻めて三振を奪うと、続く4番鈴木誠也も内角のツーシームで詰まらせてツーアウト。松山竜平にもやはり膝下へのストレートを投じて三振に打ち取り、走者釘付けでこのピンチを凌いだのである。

 こうなれば展開を考えても「完封」の2文字がちらつくし、おそらく本人もその気で投げていたのではないだろうか。今シーズン最長イニングに並ぶ7回も難なく乗り越え、いよいよ残り2イニング。しかし1死から連打を食らい、鈴木誠との対戦の最中。2ボール2ストライクという局面で、与田監督が巨体を揺らしながらマウンドに駆け付けた。

 すわ故障か!? と緊張が漂うも、一言二言交わすと与田監督はベンチに戻り、福谷は渾身の1球を投げ込んで鈴木誠から三振を奪った。どうやら故障ではないようだが、ここで投手交代。マウンドに向かう祖父江大輔と郡司裕也に声をかけたあと、うつむいた福谷の目から流れ出る涙を中継カメラははっきりと捉えていた。またしても最後まで投げきれなかった自分への悔し涙だ。

 「またしても」というのは、今シーズン初先発だった7月28日のマツダスタジアムでも似たようなことがあったからだ。このときは6回まで無失点で抑えるも、足を攣ったため続投を断念せざるを得なかった。涙こそ流さなかったものの、「最後まで投げられなくて悔しい」と無念を露わにしており、このコメントだけ見たファンから「なぜ代えたんだ」と憤慨の声が挙がったのをよく憶えている。

 同じ広島戦。「今度こそ」の想いも強かったはずだが、既に110球を超え、先発経験の少ない福谷の体力は限界を迎えていたのだろう。試合後のインタビューで与田監督は「明らかに投球フォームもおかしくなっていた」と交代理由を説明した。

 ここから更に厳しい日程に突入するなかで、貴重なローテ投手に故障されたのではたまらない。首脳陣の判断は妥当も妥当である。ただ、福谷の気持ちも痛いほど分かる。与田監督はベンチで背を向けて号泣する福谷のもとに歩み寄ると、背中を優しく叩いて労をねぎらった。

 最後はそのものズバリ“福”敬登が締めてゲームセット。竜の三福神そろい踏みでカード勝ち越しを決めるという縁起のいい試合になったが、そんな中でも一番の主役が悔しさを感じているという事実。決して現状に満足しないこの感じ。ドラゴンズが、本当の意味で強くなってきたのかもしれない。