ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ドラマチック堂上

○5-3巨人(13回戦)

 典型的な負け試合だった。5回までに毎回ランナーを出しながら7残塁。どう見たって調子の悪い田口麗斗を助けるような拙攻でスコアボードに「0」を並べ、そうこうしているうちに巨人が好機をきっちりモノにして3点ビハインド。東京ドームで何度見たか分からない、いつもの負けパターンだ。

 先制された試合の勝率が1割台の中日に対し、先制した試合は8割以上の確率で勝つ巨人。世界中のあらゆるAIが「巨人勝利」の予測を導き出すであろう展開のまま、試合は中盤6回を迎えた。死球と阿部寿樹の二塁打で無死二、三塁。続く京田陽太のセカンドゴロで1点は返したが、ここまでならよく見る光景だ。

 いつもなら後続が打ち取られて1点止まりがお決まりパターンのはずだが、このイニング2個めの死球を挟んだあと、ネクストバッターズサークルには背番号63、堂上直倫が出てきた。

 正直に言おう。今シーズン13タコの堂上をこの局面で使わなければならない層の薄さに頭を抱えたし、甲子園での3連敗を受けて野手の入れ替えをしなかった首脳陣に対しての怒りも沸いた。堂上の個人的なファンを除いて、おそらくここで大多数のファンが見たかったのは「石垣雅海」の4文字だったのではないか。

 二軍で昨日4安打、今日もマルチ安打の活躍でウエスタンリーグのバットマンレースを快走する22歳を今使わずしてどうするのだと、10年以上も見続けている堂上の“鋭い”とは言いがたい素振りを目の当たりにし、余計に石垣が見たい気持ちに駆られたのである。

 犠牲フライが関の山。どうせ遠回りのスイングでセカンドゴロでも転がしてゲッツーだろう。諦め半分でスマホをポチポチいじっていると、2秒も経たないうちに信じられないような光景が目に飛び込んできた。初球を叩くと、打球はライト方向にぐんぐんと伸びていく。ライト松原聖弥の頭上を超える、あわやスタンドインかというフェンス直撃のタイムリー二塁打だ。なんと堂上が、あの「ここぞ」で滅法弱い堂上が、代打で大仕事をやってのけたのだ。

 ネガティブな予測しかできなかった自分を今から一緒に、これから一緒に殴りに行こうかと頭の中でチャゲアスが拳を突き上げて歌い出すような、まったく予期できなかったドラマチックな展開だ。

 その後同点に追いつき、7回にはマスター阿部の勝ち越し2点タイムリーで勝負あり。みごとにパターンをぶち壊した与田ドラゴンズが、事実上の「後半戦」開幕をしぶとい逆転劇で制したのだった。

 

謙虚さは無用

 

 上品なのか何なのか、中日の選手はどうにも「ここぞ」で弱い選手が目立つ。この日も序盤の二度のチャンスで頼みのビシエドが凡退。塁を賑わせるだけ賑わせておいて、結局無得点では余計にストレスが溜まる一方だ。

 だからこの試合、千載一遇とも言えるチャンスに堂上が出てきたのには目を疑うほど驚いたのだ。くどいようだが、堂上は今シーズンに限らず一打同点とか逆転の場面で打った印象がほとんど無い選手だ。昨シーズンは自身初となる二桁ホームランを記録するなど、主に代打として申し分ない活躍をみせるも、それまでのキャリアで植え付けられた勝負弱い印象があまりにも強く、未だにチャンスで堂上というと期待よりも諦めの方が勝つのが率直なところだ。あくまで私個人の感覚だが。

 ただ、未完の大器ももうプロ14年目。そろそろベテランとしてチームの見本になるべき年数だし、むしろ普段の打率は低いけどチャンスには滅法強いーーそんな「さすがベテラン」という働きを期待される立場だと思う。

 その堂上が、負ければ4連敗の窮地からチームを救ってくれた。試合後「今まで(期待に)応えられなかった分、これから取り返せるように頑張ります」(中日スポーツweb)と謙虚に語ったのがいかにも堂上らしい。でもグラウンドでは謙虚さは無用。

 かつて「ミラクル逆転竜」と恐れられるほど逆転試合が多かった1988年の星野ドラゴンズでは、終盤のチャンスになると「オレを使ってくれ!」とばかりに川又米利や仁村徹といった控えの代打陣がベンチ内で素振りするなどして“アピール”をしたのだという。打てばヒーローになれる場面、萎縮するどころか闘志剥き出しで名乗り出る図々しさ。これが最近の上品なドラゴンズには足りない部分だろう。

 今日は堂上がみごとに打った。なにくそ、明日こそはオレが! と思える選手が増えれば、このチームはもっともっと強くなる。後半戦は控えメンバーの闘いにも要注目だ。