ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

山井は先発か中継ぎか問題

●3-7ヤクルト(12回戦)

 酒の席であろうと何だろうと、家族、友人以外の人間と話すときにタブーとされている話題がある。「政治、宗教、山井は先発か中継ぎか」の3つである。余計な対立を生みやすいくせに周りの共感は得にくいので、どんなに悪ノリしてもこれらの話題を表立って口にする人間は今まで見たことがない。ヘタすると酔った勢いも手伝って、殴り合いの喧嘩になりかねないからだ。

 特に山井問題は深刻だ。誰かが「山井大介」の名を何の気なしにつぶやけば、山井のキャリアハイは一体いつなのか問題で一悶着起こるのは、もはや避けようがない。A氏は日本シリーズで完全試合未遂を達成した2007年だと主張し、B氏は最多勝を獲得した2014年に決まってるでしょと眉間にシワを寄せながら主張する。すると今まで黙っていたCが急に口を開き、何を言うかと思えば56試合に登板してWHIP0.93を記録した2012年のリリーバー山井こそが至高だとほざく。

 3人がああでもないこうでもないと騒いでいると、今度は酔い潰れて横になっていた一宮出身のDがムクッと身体を起こし、「たわけ。黙って聞いとりゃ笑わせてくれる。27試合12先発、便利屋としてフル稼働した2005年が一番に決まっとるがね」と茶々を入れ、いよいよ議論は収拾が付かなくなるのだ。

 それ以外でも試合前にじゃんけんで登板が決まり、急遽先発した試合で完封勝利。日本シリーズでも白星をあげた2004年こそが最も印象深いという私のような人間もいるわけで、とにかく山井という投手のキャリアを語り始めると、各々によって思い入れポイントが全く違うことに気付かされる。

 昭和時代には先発、リリーフを兼任する投手もいたが、山井のようにシーズンごとに役割が変わり、なおかつ長年第一線で活躍する投手はそうはいない。まさしく球界カメレオンとでも言うべき適応力だ。

 そしていつのまにか球界最年長になって迎えた今シーズンは、どうやら8年ぶりにリリーバーとして勝負をするようだ。

 

プロ19年目も問題なく通用

 

 試合の趨勢がほぼ決まった7回裏。心なしか日焼けした背番号29が、久々に一軍マウンドに帰ってきた。テロップに表示された「42歳」という年齢に驚かされる。前回、シーズンの大半をリリーバーで過ごした2012年の時点で、既に34歳のベテランだったのだ。まさかその後ノーヒットノーランを達成するとも、先発で最多勝を取るとも、こんなに長く現役を続けることになるとも夢にも思っていなかった。

 しかしいざプレーがかかると、山井はコーナーを丁寧に突きながら、全盛期と変わらないグニャンと曲がる変化球でひとまわり以上も年齢が若い打者を手玉にとってみせた。

 先頭打者を味方のエラーという形で出しても、焦る素振り一つ見せないのはさすがの一言。山田哲人の二塁打でピンチを招いたが、最後は独特の軌道で落ちるフォークで空振り三振を取り、プロ19年目も問題なく一軍で通用することを証明してみせた。

 それにしても山井のキャリア変遷はいつ見ても理解できない。そもそもルーキーイヤーからして31登板15先発という変則ぶりで、通算成績も330登板181先発とほぼ五分で割れている。それでいて規定投球回数に達したのは一度のみで、リリーフとして活躍したと言えるのも2012年くらいのもの。

 普通、40歳を過ぎても現役を続ける投手は、どちらかの分野で突出した成績を残したケースがほとんどだ。ドラゴンズでいえば山本昌や岩瀬仁紀がいい例だろう。ところが山井は19年目を迎えたこの期に及んで“8年ぶりのリリーフ転向”などと訳の分からないことをやっている。意味不明だが、そこが面白い。

 では本当のところ、先発かリリーフのどちらが山井の適正なのだろうか。個人的には、スタミナが衰えた今の山井には1イニングに全力を注げるリリーフの方が合っていると思うので、今日のような使い方が現状ではベターだと言いたい。

 ただ、先発が早くに崩れたときのロングリリーフ要因として待機してくれるならそれはそれで頼もしいし、そこで結果を残したときは先発起用も考えるべきだろう……ってな具合に歴代監督たちも都合よく使ってきたわけだ、多分。

  先発最多勝の2013年か、リリーフ50登板の2012年か。もしくはバランス型の2005年か、インパクトの2007年か。今日もまた日本のどこかで、山井をめぐって喧々轟々の言い争いが繰り広げられているに違いない。