ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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渋く光った高橋周平の粘り

○7-4巨人(11回戦)

 序盤に先制、中盤に中押し、終盤にダメ押しと理想的な流れで得点を重ね、首位巨人相手に打ち勝つことに成功した。

 されど弱いチームにありがちな「負けるときは惜敗、勝つときは大勝」というようなワンサイドゲームにもならず、8回裏には一打同点の大ピンチにも見舞われるなどピリリと効いた緊張感もあった。最後はライデル・マルティネスが球団史上最速の160キロを計測したストレートで丸佳浩を空振り三振に斬って取りゲームセット。

 15日、16日に連敗すると早くも自力Vの可能性が消滅するという危機的状況のなか、とりあえず「終戦記念日」を回避した格好だ。

 ヤリエルは制球が不安定ながらも幾度ものピンチをよく凌いだし、強気のリードに徹した郡司裕也もお見事だった。打つ方ではビシエドの一発、そして試合を決めた阿部寿樹の2点タイムリーは不振にあえぐ本人にとっても大きな一打になったはずだ。

 しかしこの試合において一人ヒーローを選べと言われたら、私は高橋周平を推したいと思う。別に天邪鬼で言っているわけではない。4点を入れた8回表の攻撃、その流れを作ったのは紛れもなく高橋の“粘り”だったのである。

 

僅差の終盤逆転は原巨人のお家芸

 

 東京ドームの巨人戦に「セーフティリード」などという戯言は無いと考えていい。何かのキッカケで怒涛のごとき反撃を喰らい、訳もわからぬまま逆転を許す。そんな試合を今までいったい何十回と見てきたことか。

 7回終わって2点リード。巨人は4回裏の無死満塁でポテンヒットの1点どまりに終わるなど、らしくない拙攻でヤリエルを打ちあぐんでいた。しかしドラゴンズも6回表の2死満塁を生かせず、お互いに決め手に欠けたまま終盤へと突入。弱気すぎるかも知れないが、不吉な予感しか無かった。なぜなら僅差を追いあげる展開は、昔から原巨人のお家芸だ。

 ランナーが出れば間違いなく増田大輝を代走に送り、ドームは劇的な逆転勝ちを期待するファンの熱気でたちまち包まれるだろう。そうならないためにもドラゴンズはなんとかリードを広げ、巨人の戦意を消してやらねばならなかった。

 8回表、先頭のアルモンテが詰まりながらもライト前へ落とす。無死一塁。さらに福田永将が冷静に低めを見極めて一、二塁。ここで得点できなければ、流れは完全に巨人に行ってしまう。是が非でも最低1点は取りたい場面だが、頼みのビシエドが甘い変化球を打ち損じてファウルフライに倒れた。

 取るべきときに取れないのは、このチームの数年来の課題だ。また今日も同じパターンの繰り返しなのか? 宮國椋丞のフォーク連投にまんまと釣られ、簡単に追い込まれてしまった時は、このイニングの無得点ばかりかその後の逆転負けまで脳裏をよぎったものだ。しかし今日はここからが違った。

 ボール球を振らせようとフォークを続けるバッテリーの思惑に乗らず、気付けばカウントはフルカウントまできた。勝負の7球目はフォークがすっぽ抜けてど真ん中へ。願ってもないようなチャンスボールだが、これを高橋は捉えきれずにファウルとしてしまう。普通に考えればミスショットだが、ヘタにフェアゾーンに飛ばなかったのが高橋のツキであり、宮國の誤算だったかも知れない。

 結局8球目は投げた瞬間にそれと分かるボール球で満塁となるわけだが、これは完全に高橋の粘り勝ちだ。とにかく相手を助けるような早打ちが目立つ今シーズンのドラゴンズ打線。チャンスでクリーンアップに回りながら、ビシエドが2球で倒れ、高橋もフォークを振ったり、甘いボールを打ち損じて凡退したのではみすみす流れを手放すようなもの。だがカウント0-2からフルカウントまで粘り、結果的に四球では宮國もガクッと来ただろう。

 

宮國を崩した高橋の粘り

 

 「相手の嫌がることをするのが作戦だ」とは、明徳義塾高・馬淵史郎監督による名言だ。初出場の1990年から2014年まで夏の甲子園初戦15連勝という記録を築いた名将は、時に物議を醸す作戦でもってチームを全国屈指の強豪に育て上げた。

 「嫌がること」とは主力打者の敬遠のような分かりやすいものだけでなく、カウントごとのボールの待ち方とか、より緻密なものも含まれているのだろう。ドラゴンズに足りない部分は、まさにこれだ。相手のある競技なので、そう簡単には打った、抑えたとはいかない。ならば、いかにしてその確率を上げていくかが勝負を分ける鍵となる。

 フォーク連投で追い込んだ時、バッテリーは高橋を仕留めたと思ったはずだ。そこから同じ球を見極められ、フルカウントまで粘られたことが想定外。これに動揺してあっという間に4点が入るのだから、人間心理というのは脆いものだ。

 今までドラゴンズが散々やられてきたことを、今日はやり返せた。ここぞの場面で相手を嫌がらせた高橋の渋く光る粘りこそがダメ押しに繋がったのである。

 

【参考資料】

『やる気にさせる高校野球監督の名言ベスト66』田尻賢誉/スポーツナビ