ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

一撃必殺

○3-1巨人(8回戦)

 “ホームランは野球の華”とは言うが、「華」というよりホームランは「必殺技」だと思うのだ。

 絶体絶命の主人公。そのとき飛び出した起死回生の一撃。みんな大好き王道ジャンプ漫画のような逆転3ランを打ったのは、今シーズンここまで苦しみ続けた福田永将だった。

 

一振りの影響力

 

 畠世周が投じたこの日102球。あとアウト5個で完封負けという危うい局面で、福田が振り抜いた打球はレフトスタンドへと一直線にグングン伸びていった。常日頃からいい当たりをことごとく跳ね返す、高さ4.8mの憎き壁を優に越す一発。今シーズンまだ1本しかホームランが無かったとは思えないような完璧な当たりをブチ込んだ。

 昨夜、チームにとっても“8月1号”となった阿部寿樹のホームランについて「本当に一振りの影響力ってのは久しぶりに感じましたね」と語った与田監督。今日はまさにその一振りで試合を決めたとあって、ますますテラス待望論が過熱しそうである。

 ただ、結果的にホームランが“一撃必殺”になったのも、そこに至るまでの幾つかのプロセスがあったからだと思う。

 

冷静に難所切り抜けた勝野

 

 殊勲者の一人は言うまでもなく勝野昌慶だ。7月11日の悪夢の大量失点を乗り越えてここまで2試合連続でQSをクリアしており、徐々にローテ投手として信頼感も生まれつつある。

 その勝野は今日も初回から最速150キロのストレートとフォークを決め球にしてアウトの山を築いていく。しかし味方も満塁の好機を逸するなど両チーム共に0行進で迎えた4回表、岡本和真にバックスクリーンへ飛び込む特大のホームランを浴びると、続くウィーラーにも内野安打を許し、イヤな雰囲気が漂い始めた。

 去年までの勝野ならここで我慢できずにアバランチーー雪崩のごとく打ち込まれてKOされていたことだろう。しかし今年の勝野は違う。集中力を切らさず、まずはパーラをフォークで空振り三振に。さらに叩きつけたカーブが暴投になって走者を二塁に進めても、冷静に吉川尚輝をゴロに打ちとり1点で堰き止めた。

 ここで2、3点失っていれば沈滞ムードに呑みこまれていた場面。怖い打者が並ぶ巨人相手に6回投げて88球という少ない球数こそが、逃げずに立ち向かったことを何よりも雄弁に物語っている。

 

三本の指に入るナイスゲーム

 

 打のヒーローが福田で、投のヒーローが勝野なら、守のヒーローには高橋周平を推薦したい。

 7回表、久々に登板の福敬登が先頭パーラにヒットを浴び、無死1塁。吉川尚輝はランエンドヒットを成功させるべく必死で食らいつき、11球目を三遊間めがけて思いっきり流し打った。

 思わず目を背けたくなるような強い当たり。しかしサードの高橋周平が果敢に飛び込んで打球を食い止めると、立て膝のまま二塁へ送球しフォースアウト。もし抜けていれば無死一、三塁。敵将がベンチを叩いて悔しがるほどのこのプレーこそが、振り返れば試合の分水嶺となった。

 このあとのピンチもなんとか凌いで試合は運命の7回裏に突入。福田の逆転弾が飛び出すわけだが、勝野、高橋の集中力に満ちたプレーがあってこそ最少得点差でこのイニングを迎えることができたのだ。

 たしかにホームランは魅力的だし、テラスが付けば一発でひっくり返るような劇的な試合が増えるだろう。ただ、それだけで勝てるようになるとは思えない。球場が狭くなる分、相手もホームランを打ちやすくなるのだから、四球やエラーの重みはむしろ今以上に増すのではないだろうか。

 軽率な四球、お粗末な守備の連発で3タテを喫したDeNA戦とは打って変わって、この2試合は全体的に締まった動きが見てとれた。派手な必殺技も、そこに至るまでのプロセスがあってこそ効くもの。

 投、守、打が噛み合った、今シーズン三番の指に入るナイスゲームだった。