ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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9人目の野手

○7-1巨人(7回戦)

 “安心してゲームセットを迎えられる試合”が、今季どれだけあっただろうか。

 たとえ勝ち試合でも、手に汗握りながらなんとか勝ちにこぎつけた、みたいな試合がやけに多い気がして、試しに5点差以上で勝った試合を数えてみた。

 1,2,3,4……4試合だ。もうシーズンも3分の1を終えたと言うのに、気楽に勝てた試合が4つしかない。ちなみにこれを「4点差」に範囲を狭めても一緒。15勝のうち11勝が3点差以内のセーブシチュエーションなのだから、そりゃ気楽さとは程遠いわけだ。

 逆に5点差以上付けられて負けた数はというと10試合だった。4試合に一度は大敗しているのだ。最下位に甘んじているのも然もありなん。

 原因ははっきりしている。打線が弱いからだ。塁は賑わしても点につながらないもどかしさ。「去年までと何も変わっとらん!」ならまだしも、去年より遥かにひどくなった今シーズンの強竜、ならぬ貧竜打線。

 しかし今日は少しばかり違っていた。キッカケとなる貴重な一本を放ったのは“9人目の野手”だった。

 

あきらめかけたイニング

 

 2回裏、ドラゴンズは先制するには絶好のチャンスを得た。先頭の高橋周平がツーベースで出塁し、色々あって1死一、三塁。外野フライでも先制点が入る場面。ところが今年はこういう時に点が入らない。

 スライダーを引っかけた井領雅貴の当たりはボテボテのセカンドゴロ。しかしスタートが遅れた高橋が本塁で噴死し、2死一、二塁となり投手に打順が回ってしまう。またしても掴みかけた流れを手放してしまうのか。今のドラゴンズを象徴するような拙攻でチャンスを逸すーー。

 打席には打ち気満々の大野雄大が入る。とは言え3年前、歴代リーグワースト2位となる80打席連続無安打の記録を樹立した選手である。望み薄というより、むしろ全く期待もできない。冷蔵庫に追加のビールでも取りに行こうかと席を立った、次の瞬間だった。低めをキレイに拾い上げた打球がセンター前にポトリと落ちた。先制タイムリーだ。

 こうやって油断した時ほど思わぬ展開が待っているのがプロ野球の醍醐味だ。そして長いこと苦しんでいた打線が、たった一本のヒットをキッカケにして急に機能し始めるのもまた面白い。続く京田陽太、さらに大島洋平にも連続スリーベースが飛び出す。

 一旦はあきらめかけたイニングに、大きな「4」の字が刻まれた。実は文章の流れでウソついたけど、本当は大野に全然期待してなかったから、冷蔵庫にビールを取りに「行きかけた」んじゃなくて、取りに行ったのだ。つまり目を離した隙のタイムリー。こんな事ならちゃんと見とけばよかった。

 でも、ちょっと後悔しながら飲む金曜日のプレミアムビールは、最高においしかった。

 

投げても打っても大野

 

 6点リードで迎えた9回表のマウンドには、大野が立ち続けた。坂本勇人から始まる怖い打順。もし僅差なら緊張しながら見守るのだが、今日の展開なら何の心配もいらない。

 あとは2週連続の完投をどんな風に飾るのかを、余裕も余裕で堪能するだけだ。ハッピーエンドで終わるのが分かっている映画を楽しむように。

 先頭坂本の打球を京田が例によって深い位置で捕り、アウトに仕留める。名人芸に拍手を送る大野。4番・岡本和真には外角に沈むフォークで三振。そしてラストバッター・ウィーラーにはやや外れたツーシームでこの日10個目の三振を奪い、首位巨人相手に見事な完投勝利を飾ったのだった。

 投げても打っても大野。まさに一人舞台とはこの事だ。あれだけ壊滅的だった防御率も気付けばリーグ5位にまで上がってきた。登板イニング、奪三振数は共に1位。開幕時に二軍落ちさえ現実味を帯びるほどの不調に陥ったのがウソのように、すっかりエースらしい姿に戻った。

 そして久々の5点差以上付けての大勝。さあ、逆襲の始まりだ。遠出ができない今年の盆休みは家でゆっくりドラゴンズの快進撃を楽しもうではないか。