●0-3DeNA(9回戦)
みんな知ってるのに、自分だけが知らなくて無性に不安になることがある。たとえばある日、会社の朝礼か何かで社員の誰かが結婚すると発表されて、驚いているのは自分だけで周りの社員はみな微笑ましくそれを聞いていたとき。
え? なんで? なんでみんな知ってるの?
と、汗だらだら垂らしながらも知らなかったことを悟られたくないもんだから、周りに合わせて「うん、うん。知ってた知ってた。めでたいなあ」と全力で笑顔ひきつらせながら拍手する、あの感じ。
いや、内心めちゃくちゃ驚いてるし、そんな動きがあることすら全然知らなかったスけど。なんでみんな、「馴れ初めから見守ってきました」みたいなツラして幸せムードに包まれてんだよ。てか知らなかったのオレだけ? 怖っ。
っていう、疎外感MAXを味わうたびに、『世にも奇妙な物語』の名作『ズンドコベロンチョ』を思い出すのである。
今のドラゴンズって、まさにこの状態。他のチームの選手はみんなホームランの打ち方くらい余裕で知ってるのに、中日の選手だけがどうやって打てばいいのか全然知らない。そんなパラレルワールドに迷い込んだかのように打線が沈黙したドラゴンズは、苦手横浜でまたしても3タテを喫したのだった。
根尾の決意
「ドラゴンズを優勝させる」
2018年ドラフト会議翌日、指名あいさつに訪れた与田監督の御前で根尾昂は堂々と決意を語った。そして二言目には「自分の力でチームを底上げするのが一番の使命だと思っている」とも。
当時、既にドラゴンズは6年連続Bクラスと低迷の最中にいた。たとえ学校が大阪でも、幼少の頃から慣れ親しんだ地元のチームがどういう状況にあるのかくらいは知っていたのだろう。
並の18歳がこんな発言をしようものなら「生意気だ」「何様だ」とバッシングに晒されるのだろうが、根尾という特別な存在の言葉とあればファンもメディアも御神託のように受け止め、本気でその日が来るのを待ち続けてきた。
あれから1年半以上の歳月が過ぎ、根尾はようやく本当の意味で一軍の舞台に立った。さあ、あの時の言葉どおりにドラゴンズを優勝へ導いてくれーー。
ところがどうだろうか。この2日間、レフトでスタメンに入った根尾はチームを救う好プレーを連発。普通なら若手の躍動に感化されて先輩たちも奮起しそうなものだが、もはやBクラス慣れしたこのチームの機能不全は、ちょっとやそっとのことでは直らないようだ。
優勝どころか、最下位独走の様相を呈してきた。自分が初めてスタメンを張った3連戦はまさかの全敗。もちろん根尾もノーヒットに終わった以上、まったく責任がないわけではない。それでもクレバーな根尾のことだ。あらためて自チームの窮状を目の当たりにし、優勝へ向けた逆算を始めているに違いない。
プロ初安打こそお預けとなったが、守備を含めれば一軍レベルでも戦力になることは分かった。初回の倉本寿彦の大飛球、3回のレーザービーム共におそらく福田永将なら叶わなかったプレーだ。爪痕は残した。あとは上原浩治氏も言うように、なんとか一本さえ出れば成長曲線を駆け上がっていく可能性は十分ある。
奇妙な世界に迷い込む
未来に向けた収穫が確実にあったこの3連戦。しかし一方では3タテという厳しい現実がのしかかる。日本でいちばんホームランが出やすい球場で一発も打てなかったドラゴンズ。5発のアーチをかけた先様。同じようにバットを振っているのに、この差はいったい何なのか。やっぱり「ドラゴンズだけがホームランの打ち方を知らない世界」に迷い込んだのではないか。
『ズンドコベロンチョ』のラストは、草刈正雄扮する主人公が遂にたまらず「ズンドコベロンチョって、なに?」と大勢の社員の前で涙ながらに訊ねるシーンで終わる。ドラゴンズの選手も、そろそろ本気で他球団の選手にホームランの打ち方を教えてもらった方が良いのかもしれない。
今日も打てずに零封負け。根尾くん、早くドラゴンズを奇妙な世界から出しておくんなまし。