ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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何にだってなれる

●0-3DeNA(7回戦)

 憧れの企業への就職や、趣味を生かした仕事など、大人になるにつれ諦めることは増えていく。

 たとえば新卒採用しかしていない会社には就活で落ちた時点で入社の夢は絶たれるし、家庭を築けば退職して夢を追いかけるといった思い切った決断もなかなかできなくなるものだ。

 そうやって少しずつ小さな夢を諦めながら、地に足つけて、時には泥水をすすって、現実という名のシビアなオープンワールドを今日も我々大人はサバイブしているわけだ。で、たまに20そこそこの若者と喋る機会でもあれば、大人たちは遠い目をしながら決まってこう呟くのだ。

 「いいよな若者は。まだ何にだってなれるよーー」と。

 2000年生まれ20歳。ミレニアム世代の代表格・根尾昂が久しぶりに一軍の舞台に帰ってきた。

 

「1番ライト根尾」

 

 昨年9月以来となる一軍。しかし消化試合のいわゆる“社会科見学”だったあの時とは違い、今回は二軍で結果を残した上での戦力としての招集だ。

 その根尾を、与田監督はいきなり「1番ライト」で起用した。スタメンで出すならレフトかと思っていたので、この采配には心底驚いた。そしてワクワクした。なんたって一桁背番号のドラ1がライトを守るのだ。30代以上のファンなら「福留孝介」の姿を重ね合わせずにはいられないはずだ。

 薄暮の18時。プレイボールと共に打席に立った根尾は、いとも簡単に三振に打ちとられた。拍子抜けするほどあっさりと。3回の2打席目は、高めの釣り球を打ち上げてサードフライに倒れた。しかし、記念すべき初・フェアゾーンに飛んだ打球だ。それだけのことでも大きく前進したように思える。ファンはどこまでも若手には甘いものだ。

 結局3打席目も凡退し、待望の初ヒットはお預けのまま8回の打席で代打を出されて役目を終えたが、見せ場が全くなかったわけではない。4回裏、無死一塁でソトのポテンヒットを処理すると、半端な位置で油断していたバッターランナーを矢のような送球で殺しかけたのだ。

 「かけた」というのは、際どいプレーがリクエストの結果セーフと判定されたからなのだが、解説の大矢明彦氏も指摘していたように、スロー映像を見る限りアウトなのではないかと思う。もし覆っていれば根尾の好プレーだっただけに、惜しい判定となってしまった。

 

何にだってなれる

 

 ただ、結果はともあれ大きなミスもなくスタメンで7回まで出続けたことにこそ、とてつもなく大きな意味があると思うのだ。

 二軍では本職のショートに加え、セカンド、サード、レフト、ライトとユーティリティ的な起用法でどこでも出られるよう準備に励んできた。いろいろなポジションを柔軟に「たらい回し」できるのも、よく言えば若さゆえの特権だと思う。

 去年の今ごろは、まさか根尾がライトでスタメン出場しようとは誰に言っても信じてもらえなかっただろう。その“まさか”が実現した。こうやって簡単に想像を超えてくるから、若者の底知れなさはホントに見ていて楽しい。

 今日は3タコだった。しかし根尾はこれから何にだってなれる選手だ。福留にも、荒木雅博にも、なんなら背番号7の先輩・森野将彦のようにユーティリティ路線を極めるのもアリかも知れない。なりたい自分を目指せばいいし、なれる可能性は大いに秘めている。

 既に可能性が狭まりっぱなしの大人からすると、羨ましいを超えて妬ましいほど今日の根尾はキラキラして見えた。「ここからオレはビッグになるんだ!」という、若かりし日のYAZAWAを彷彿とさせる野心に満ちた眼光。今はまだ意気込みに技術がついていかないけど。なぁに、すぐに慣れるさ。

 この若者がどんな風に育ち、何になってくれるのか。今から何年もかけてじっくりと味わい尽くせると思うと、楽しみで仕方ない。