ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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リミッターを外した怪物

△0-0ヤクルト(9回戦)

 「梅津はすごい、次期エースだ!」

 入団以来、梅津晃大はずっとそうやって持ち上げられてきた。なんならドラフト前、“東洋大三羽ガラス”と呼ばれていた頃から、4年間でわずか通算2勝ながら「ポテンシャルは一番」との評価を引っ下げ、限りなく1位に近い形でドラゴンズの2位指名を受けた。

 評判どおり、確かに梅津は1年目から非凡なものを見せてくれた。右肩痛などでつまずいたこともありプロ初登板こそ8月と遅かったが、そこから近藤真一に並ぶ球団記録のデビュー以来3戦3勝をマーク。結局6試合の登板で4勝をあげ、「次期エース」の呼び声に違わぬ期待を抱かせてくれたのだった。

 ただ、学生時代から怪我がちだったことから、その起用法は慎重に慎重を重ねたものにならざるを得なかった。今日の試合が始まるまでの通算12登板で最多投球イニングは7回が二度あるだけ。完投はおろか、終盤の景色さえ知らずに大野雄大、柳裕也に次ぐローテ3番手を任されるという歪(いびつ)な立場にいる。

 投球内容も決して安定しているとは言い難く、良い時と悪い時とで極端な差があるのが玉に瑕。防御率もなかなか上向かず、今季ここまで黒星先行を余儀なくされている。たとえば今季初登板のヤクルト戦では7回無失点と見事な投球をみせたものの、次の広島戦では5回10安打7失点でノックアウト。これではエースの称号を継ぐには早すぎる。

 

いきなりの10回完封

 

 梅津に描く将来像は、具体的にいうなら菅野智之、今永昇太、大瀬良大地、千賀滉大、山本由伸といったスーパーエースに育つことだ。本人も大谷翔平が目標だと言ってはばからず、これが大言壮語に感じないのが梅津の凄さでもあるのだが、現在のところそこまで圧倒的な投球には残念ながらお目にかかれていない。

 たしかにスケール感こそあるが、不安定で制球難。調子が悪いときに露骨に顔や態度にでるのも未熟さを感じさせる。早い話が梅津はまだ“次期エース”の看板を背負わせるには足りないものが多すぎると、今日の試合が始まるまではそう思っていた。

 しかし今日の梅津は明らかに違った。今までの梅津とは全く別の投手と言っても過言ではないほど、内容、質ともに一段も二段もレベルが違っていたのだ。

 初回をわずか10球で凌ぐなど一回り目は40球でパーフェクト投球。4回表、1死一、三塁のピンチに4番村上宗隆を併殺打に打ち取ると、梅津のエンジンはいよいよ轟音をあげて加速し始める。

 5回、6回、7回と異例のテンポで進んでいく試合。球数が少ないこともあり、梅津はプロ入り最長となる8回のマウンドに立った。初めての終盤戦とあってスタミナ切れも心配されたが、イニングを追うごとにむしろ投球にはますます迫力が生まれ、表情も鬼気迫るものへと豹変していった。

 雄叫び、ガッツポーズ……。マウンドの支配者と化した梅津を止められる者はもういない。9回、さらには10回も抑え込み、梅津は実質的にプロ入り初完封を飾ったのだ。

 あらためて念を押すが、梅津は昨日まで7回までしか投げたことがなかった投手だ。それがいきなり8回どころか10回完封である。

 怪物がリミッターを外すというのは、きっとこういう事なのだろう。

 

決まった! エース後継

 

 ホームの引き分けは負けに等しいとも言うが、今日に関しては当てはまらない。何しろ次期エースが遂に覚醒したのだから、チームにとって計り知れないほど大きな試合になったと思う。

 調子がいい時の梅津はここまで圧倒的な投球ができる。それが分かっただけでも大収穫だ。ちなみに過去20年間で10イニング以上を一人で投げ切ったドラゴンズの投手は3人しかいない。

 野口茂樹、川上憲伸、吉見一起。共通するのは、全員がタイトルホルダーであり、一時代を築いたエースであること。もう梅津が跡を継ぐのは決まったようなものだ。