ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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「犠打・走・守」三拍子そろった活躍

○3-1ヤクルト(8回戦)

 「役割分担」ってホントに大事だなと。今日の試合を見ていて、あらためて感じた。

 昔の話で恐縮だが、2004年に就任1年目の落合監督がいきなり優勝できたのは、選手それぞれに分かりやすく役割を割り振ったのが奏功したからだ。

 それも主に控え野手に対して、たとえば外野守備のスペシャリスト英智、内野守備のスペシャリスト渡辺博幸、代打の切り札高橋光信といった具合に、それまで単に“補欠”と括られていた選手達に明確な役割を持たせることで、選手本人の自覚を促すと共に、試合展開のなかで「そろそろ出番だな」と誰が言わずとも準備するようになった。そうした個々の自立がチーム力を「10%」底上げし、下馬評を覆してのリーグ優勝に結実したわけだ。

 その旗印となったのが、巨人から獲得した川相昌弘の存在だった。一度は巨人で引退試合まで行いながら、フロントとの齟齬からコーチ就任を白紙撤回。かつてチームメイトだった落合に声をかけられ、不退転の覚悟で“選手復帰”を果たしたのだ。

 形式的な入団テストこそ行ったものの、「沖縄行の飛行機に乗った時点で合格だった」と後に落合は語っている。その川相にプレイ面で求められていた役割はただ一つ、巨人で世界記録となる514個を叩き出した、「送りバントのスペシャリスト」である。

 試合終盤、ここぞの場面で川相の名がコールされるだけで観客席からは万雷の拍手が送られた。サインなんて出すまでもない。敵も味方も、試合を観ている誰もが分かっている。作戦は「送れ」だ。バットを横向きに寝かせる動作に、また拍手が起こる。そして見え見えのバントをいとも簡単に決める。そこに川相の凄さがあった。

 今季のドラゴンズはバント成功率が低い(昨日時点で.636)。無死で一塁にランナーが出れば、誰彼構わずバントさせようとするのも一因だろう。餅は餅屋に、バントはバント屋に。今日のバント成功で今季3つ目。成功率100%を維持する武田健吾は、ひょっとするとその座をつかみ取るかもしれない。

 

三拍子そろった活躍

 

 先発・勝野昌慶の踏ん張りになんとか応えたいドラゴンズは8回裏、先頭の福田永将が二塁打を放ち、勝ち越しのチャンスを迎えた。ここで勝野に代わって登場したのが武田だった。カウント2ボール1ストライクから三塁方向へ転がした打球を慌てて捕球した小川泰弘がファンブルし、ラッキーな形で自らも生きた。

 難しいと言われる三進のバントを完璧に決めてみせた武田だが、元々はどちらかと言えばヘタな部類に入る選手である。それどころか2017年にはバントを試みた際に投球が中指に当たり骨折。そのため本人も決してバントには良いイメージを持っていないのではないだろうか。

 しかし今季成功させた3つはいずれも文句のつけようがないもの。38試合で3個だから、120試合換算で約10個。このまま成功率10割と共に目指して欲しい数字だ。

 さて、相手のエラーで出塁した武田が今度は走塁でもうまいプレーを見せてくれた。井領雅貴への6球目。投球を捕手が前に弾いたわずかな隙をついて二塁への進塁に成功したのだ。相手をじわじわと追いつめる巧者の野球。ずっと見たかった野球がようやく実現しつつあるのを武田の躍動に感じた。

 その武田、9回はレフトの守備固めに入ってワンアウト目のレフトフライを難なくキャッチ。バント、好走塁、守備固めと、サブの本懐ともいえる三拍子そろった活躍で存在をアピールした。

 サファテからホームランを打った男としてパンチ力ばかりが注目されがちだが、武田の本質はおそらく守備走塁のスペシャリスト。そこにバント職人まで加われば、いよいよ試合終盤の切り札になれる資格十分だ。

 「バッター、○○に代わりまして、武田」

 このコールに大きな拍手が起こる日も、そう遠くないかも知れない。