ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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エース復権

○5-3ヤクルト(7回戦)

 一度は掴んだかに思えた大野雄大の白星が、無惨に消滅したのはちょうど1週間前のことだ。

 5回1失点のエースをあっさり降板させた采配には各方面から疑問視する声が飛び交い、勝てる試合を落としたことで首脳陣には容赦のない罵声が浴びせられた。

 与田監督は交代した理由をはっきりとは明かさなかったが、おそらく109球という球数が決め手になったのだろう。確かにあの試合、大野は初回から不安定だった。しかし過程はともあれ、結果的には5回4安打1失点なら及第点といえる。

 その投手をいとも簡単に代え、二軍から上がってきて間もない谷元圭介を送って逆転を許すのは、いま考えても道理が通らない。そして大野の交代を誰よりも喜んだのは、他でもない阪神ベンチだったのではないか。

 中日サイドからすれば大野はいつ崩れるか分からず不安だったのかもしれないが、阪神サイドとしてはそんな大野にのらりくらり抑えられるのが気持ち悪かったはずだ。現に降板直前の5回は1死一、三塁という局面がありながらも、北條史也、サンズの連続三振でチャンスを逸している。

 これを中日首脳陣は「大野が最後の力を振り絞って抑えた」と捉えて降板を決めたのだろうが、阪神サイドは内心しめた、と思ったに違いない。5回で先発が降りれば、残りの4イニングは4人のリリーフでの継投する可能性が高い。そのうち1人でも調子の悪い投手がいれば、十分つけ入る隙はあるぞ、と。

 なぜ1週間も前の試合を詳細に振り返っているのかと言うと、今日のドラゴンズがまさにあの時の阪神と同じ気持ちだったからである。

 

「しめた」吉田の交代

 

 エース大野に対して、ヤクルト先発はプロ未勝利のルーキー吉田大喜。普通に考えれば楽勝の公算が高いマッチアップだが、思わぬ苦戦を強いられることになる。

 大野が2被弾を浴びて3点を失う一方で、ドラゴンズ打線はひとまわり目をまさかのパーフェクトに抑え込まれると、ようやく4回裏に2点をあげて追い上げ態勢に入るも、1死一、二塁で京田陽太、福田永将が凡退して同点にはできず。5回裏は無死一塁から大野の送りバント失敗でゲッツーとなり、最悪の流れのまま吉田にプロ初勝利の権利を献上してしまった。

 一旦は崩れかけた吉田も立ち直り、このままズルズルといってしまうのではないか。しかし、イヤな予感は杞憂にすぎなかった。6回裏を迎え、ヤクルトベンチは吉田を降ろしたのだ。

 そのとき私を含めて多くのファン、そして中日ベンチも「しめた」と思ったはずだ。JFKレベルのリリーフが揃っていない限り、1点ビハインドくらいならどうにかなる。幸い上位打線から始まることもあり、仕切り直しでムードを変えるにはちょうど良いきっかけだ。

 もちろんルーキーだから最初から5回までの予定だったとか、球数もそれなりに多いとかヤクルト側の事情もあるのだろうが、少なくともドラゴンズとしては吉田の交代はラッキーに思えた。

 こうなると中澤雅人が打ち込まれ、慌てて星知弥を送り込むヤクルトの起用がまるで先週のドラゴンズを見ているようで、同情する余裕さえ生まれてくる。同時によく分かった。ああ、阪神は大野の交代をこんな風に見ていたんだなと。

 

エース復権

 

 ただ、大野がまさか完投しようとは夢にも思わなかった。立ち上がりに打たれ、村上宗隆にも特大の一発を食らい。勝てない投手の典型のような投球をしていたのに、終わってみれば128球完投だというのだから分からない。

 そういえば128球というと、先週の109球を大きく上回る球数だ。2点差なら8、9回は勝ちパターンのリリーフに任せるのが自然だが、それでも首脳陣が最後まで大野に投げさせたのは、少なからず先週、そしてここ数試合の悪夢が脳裏によぎったからだろう。

 他の先発投手はともかく、大野はエースだ。だから途中で代える必要なんかないし、行けるなら最後まで行かせるべきだ。それを証明した大野の防御率は、いつのまにか見られる数字にまで改善されてきた。

 もう“エース復権”と言っても差し支えないだろう。