ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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脳筋から頭脳派へ

○3-2広島(7回戦)

 高校1年生で数学と物理化学を捨てた人間にしてみれば、“理系”というだけで尊敬に値するわけだ。よくもまあ、あんな魔法の呪文みたいなモノが理解できるもんだと。

 事もあろうに慶應大学理工学部出身で野球部のエース、ドラフト1位でプロ入りした157キロ右腕となれば、もはや“なろう系主人公”にしか思えないのである。

 そんな驚異のスペックを持った男・福谷浩司が今宵の先発。一軍マウンドに立つのは実に449日ぶり。今日と同じ広島戦で、プロ初先発ながら6回1失点と好投をみせたのは記憶に新しい。

 だがその直後、腰痛が悪化して結局残りのシーズンを棒に振ることになった。先発の駒不足で苦労している中、彗星のように現れた救世主・福谷は、流れ星のように消え去ってしまったのだった。

 それでも、あの時みせた鮮烈な投球は今なお脳裏に焼き付いて離れない。それくらい先発としての福谷は魅力があったし、ドラフト1位の称号に恥じないボールを投げていたと思う。タイミング悪く離脱してしまったものの、もう一度福谷が先発で投げる姿が見てみたい。この1年間、ずっと燻っていた思いがようやく実現する日がきた。

 とは言え二軍でもそれほど完璧な結果を残したわけではないし、対するは先日、山崎康晃を打ち込んで勢いに乗っている赤ヘル打線(という表現は最近あまり見ないが)だ。期待半分、不安半分。

 しかしマツダスタジアムのまっさらなマウンドに立った福谷は、想像を絶する投球でファンの度肝を抜いたのである。

 

IQの高い投球術

 

 今日の福谷のスゴさは初回にすべて表れていた。特に1死二塁でのピレラとの対戦は圧巻だった。

 初球に149キロのストレートを内角に決めると、2球目は同じコースへの同じスピードのツーシームでファウルを打たせる。続く3球目は、やはり内角にチェンジアップ。ほぼ同一のコースに違う球種を投げ分ければ、ピレラも狙い球を絞りにくくなるはずだ。4球目は外角にスライダーを外してカウント1ボール2ストライク。ここまで4球全て異なる球種。

 そして5球目、何を投げてもおかしくない局面で、勝負球は内角高めへの149キロのツーシームだった。

 さらに続く鈴木誠也にもストレート、カーブ、スライダー、ツーシームと次々に球種を変えて空振り三振を奪った。ちなみにここで出した151キロが今日の最速。そりゃ120キロのカーブを見たあとに内角150オーバーのストレートを決めたら誠也だって打てないわけだ。

 まるで打者心理を翻弄するような見事な投球術。例えるなら、IQの高い投球とでも言うか……。そりゃ福谷ほどの高学歴なら賢くて当たり前なのだが、それでも一昨年まではこんな投球できなかったはずだ。

 ……思い出すのは3年前、長野県は松本市野球場での悪夢である。

 

脳筋から頭脳派へ

 

 勝利目前の9回裏、当時クローザーの田島慎二が巨人・宇佐美真吾にまさかの同点3ランを食らった試合と言えば、記憶がフラッシュバックする方も多いのではないか。

 あまりにツライ思い出なので、私もそこから先の展開は記憶に蓋をしていたのだが、福谷が投げる姿を見て久々に思い出した。8-8で迎えた11回裏、福谷は1死二、三塁の大ピンチを迎えていた。打席には伏兵・寺内崇幸。

 しかしこの日の福谷はいつになく調子がよかった。自己最速157キロを連発し、福谷自身も悦に入ったようにストレートをビシバシ投げまくる。1ボール2ストライクからの7球目、福谷が投じたのはやはりストレート。渾身の1球は、バットの快音を残して地方の夜空に舞い上がった。サヨナラ3ラン被弾である。

 めちゃくちゃ気持ちよさそうにストレートを投げて、いとも簡単に打たれる。これが従来の福谷の姿だった。『野球に混在する曖昧さの定量化』と題した、球の出どころの見づらさを卒論テーマに選んだ秀才が、なぜゴリゴリの脳筋ピッチングに走ってしまうのか。

 学歴を全く感じさせない投球をいつも不思議に思っていたのだが、今日は明らかに違っていた。3回からは‪圧巻の5者連続三振。こういう時こそ陥りがちな一発の怖さにも気を配りながら、丁寧なところは丁寧に、押すところは押す、剛柔を両立させた投球はまさしく頭脳派の成せる技であろう。

 だからこそ、完封もみえていた6回81球で降板してしまったのは正直言って残念だったが、何しろ1年以上一軍のマウンドから遠ざかっていたのだ。腰の状態を考えても致し方ない部分はある。何よりも福谷にとって大事なのは今日の白星よりも次回の登板だ。ムリする前に降板して、結果的には良かったのではないだろうか。

 順調なら次回は4日のDeNA戦。オースティンが戻ってきて打線に厚みが増した? だいじょうぶ。慶大理工学部の試験よりは絶対楽勝だから。

 

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  『中日新聞+』にて始まった「発掘!B面ドラゴンズ史」の第1回が公開されました。「ヒゲ」をキーワードに歴代の選手たちを振り返ってみました。

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