○1-0阪神(8回戦)
7回裏、先頭の福田永将がヒットを打って無死一塁。打席にはここまで西勇輝から2安打を放っている石川昂弥が入った。右中間を破る先制タイムリーか、あわよくばプロ第1号がここで出るか。
劇的ドラマが見たいという気持ちとは裏腹に、打席の石川はバットを寝かせてバントの構えに入った。
うわあ、つまらない采配だ
— 木俣はようやっとる (@kimata23) 2020年7月25日
心底ガッカリして、たまらずツイートの投稿ボタンを押した。堅実と言えばそれまでだが、こんなに夢のない作戦もない。見たかった景色を奪われたショックが大きく、久々に復帰した高橋周平の打席も冷静に喜べないほどだった。
その高橋は初球を打つもボテボテのセカンドゴロ。進塁打になったとは言え、あっという間にツーアウトだ。石川に打たせていたら、どんな素敵な未来が待っていたのだろうか。消極的な首脳陣に対する怒りを募らせながら、ほとんど期待もせずに井領雅貴の打席を眺めていた。
すると井領の当たりは三遊間の深いところを襲い、果敢なヘッドスライディングでタイムリーになった。これ以上なく泥くさい形だが、取れそうで取れなかった貴重な先制点がようやく転がり込んだ。
記録は内野安打。ランナーが三塁にいたからこそ点になった当たりだ。ん? 待てよ。となると、バント策がもろに的中したんじゃ……。途端に采配を「つまらない」呼ばわりした己の軽薄さが恥ずかしくなった。だって野球は結果が全てだから。与田監督も口癖のようによく話しているではないか。
「采配を正解にしてくれるのは選手の頑張り」だと。
まさに井領の頑張りにより、石川のバントは“正解”になった。ましてやこの1点が決勝点になったわけだから、今日はまちがいなく「采配で勝った試合」だったといえよう。
ロマンよりも勝利優先の采配
近ごろは何をやっても批判の対象となる与田監督の采配。当ブログも例外ではなく、最近は采配を問題視する記事ばかり書いている気がする。
そして今朝は、遂に中日スポーツが「3つの疑問」と題した采配批判とも取れる論評を1面で掲載した。こうなると、いよいよ与田監督も立場が危うい。過去に借金10以下で途中解任されたドラゴンズの監督はいないのでまだ猶予があるとはいえ、こうも風当たりが強いとデッドラインに乗った瞬間に去就をめぐる報道がヒートアップする可能性は高い。
もはや時間の問題となった今、これ以上の批判を回避する唯一の手段は勝って借金を減らすことだけだ。たとえどんなに泥くさい勝ち方であっても。
話を試合に戻そう。祖父江大輔、ライデルの好投で1点を守り切っての零封勝利。一時の感情で「うわぁ、つまらない采配だ」と不満を露わにしたのが本当にダサい。よくよく考えてみれば、石川が猛打賞を記録するのも、あわよくばホームランを打つかもしれないというのも、すべて都合のいい妄想ではないのか。
まさに昨日、首脳陣の夢みがちな采配を批判したばかりだと言うのに。舌の根も乾かぬうちに自分自身が同じ事を考えているのだから救いようがない。
たしかに石川が打てば、それはロマンそのものだ。きっと今後何十年と語り継がれる球団史に残る名シーンになっただろう。だが相手は難敵の西だ。エースとしてのプライドもある。そう簡単に19歳に3本目を打たせてくれるほど生やさしい投手ではない。
ただでさえ6回に無死一、三塁のチャンスを逃したこともあり、どんな手を使ってでも1点が欲しい場面だ。試合後、与田監督は「勝つためにバントをさせた」と真意を説明した。周りが期待するロマンよりも、目先の1点を優先して采配を振るったのだ。
二軍でも試みたことがないバントをいとも簡単に成功させた石川の非凡さ。最低でも進塁打は打てる高橋のセンス。そして内角球に食らいついた井領の執念。たしかに「つまらない」点の取り方ではあるが、「おもしろい」野球をやっても負ければ意味はない。
結果論? その通り。でもプロ野球は結果がすべて。くどいようだが今日は石川にバントを命じた采配の勝利だ。