ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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優しさが邪魔をする

●2-5阪神(7回戦)

 

 あんなこといいな、できたらいいな。あんな夢、こんな夢、いっぱいあるけど。みんなみんな、みんな、叶いやしない。不思議なポッケもドラえもんもいないのだから。

 そう、残念ながら大抵のことは思い描いた通りには進んでくれない。所詮、理想は理想。夢は夢だ。だから計画を立てるときは、想定通りにいかないことを前提とし、そのうえでリスクを取捨選択するのが「采配」というものだと思う。

 今日の試合。先発の大野雄大は5回103球1失点でマウンドを降りた。初回から33球を要し、降板直前の5回表にも1死一、三塁のピンチをなんとか抑えるなど不安定な投球でこそあったが、年間200イニング登板もこなすタフネスにとって球数はあくまで参考程度の目安に過ぎない。

 何よりも大野は開幕投手で、エースだ。プロ入り初白星が懸かるルーキーじゃあるまいし、1点リードのシチュエーションで代えるにはどう考えたって早すぎた。わずか1点差。残り4イニングをリリーフで凌ぎ切るという選択をした首脳陣だったが、またしても攻めの采配が裏目に出た格好だ。

 

シビアな理想から逆算する

 

 6回表こそ佐藤優が難なく抑えたものの、7回表に登板した谷元圭介が誤算。3つの四球で満塁を作ると、代わった岡田俊哉が2本のタイムリーを浴びて逆転を許した。

 おそらく8回ゴンサレス、9回ライデルが当初描いていた方程式だったのだろう。しかし2連投で昨日34球を投げている福敬登を休ませるのであれば、なおさら大野を5回で代えた判断には疑問が残る。

 谷元は実績のある好投手だが、今シーズンは21日に昇格したばかりでまだ2試合の登板のみ。1点差での勝ちパターンに組み込むには明らかに早計だった。

 最も信頼度の高い福を温存しつつ、4人のリリーフが揃って好投する可能性に懸けたとすれば、いささか首脳陣は甘い夢を見すぎたと言わざるを得ない。ましてや1点差。もしその間に打線が1点や2点は追加点を取るだろうと想定していたとしたら、それはそれでやはり物事を都合よく考えすぎである。

 よりシビアな理想を前提とし、そこからリスクを廃していくのが采配の本質だと私は考えている。今日の場合、5回終了時点で前提となるのは「9回表まで追加点も入らず1点差のまま推移する」という想定だ。何もかもがうまくいってこれ。そこから逆算していかに1点差で逃げ切るのかを考えるのが、監督とヘッドコーチの仕事だ。

 大野を5回で降ろしたからには、その後の4イニングを任せる投手は少なくとも今日の大野よりも信用できる存在でなくてはいけない。では佐藤や谷元が1死一、三塁のピンチを連続三振で切り抜けられるほどの投手かといえば、迷わず“YES”と答えられる人がどれだけいるというのか。

 

優しさが邪魔をする

 

 「選手は信頼しても信用はするな」

 これは首位を独走する巨人の原辰徳監督が、故・星野仙一氏にかけられた思い出に残る言葉を問われ、挙げたものだ。

 過去の実績や経験に敬意を持っても、それが未来を保証する根拠になるとは限らない。だから選手を使うときは「きっとやってくれるだろう」ではなく、「やってくれない」ことを念頭に置く必要がある。たしか落合博満氏も監督時代に同じようなことを言っていた記憶があるので、名監督と呼ばれる人物に共通する思考法なのかも知れない。

 翻って与田監督の采配は、選手が期待に応えることを信じすぎている傾向がある。根が優しく、情に熱い人なのは分かる。ただ、勝負師には向いていないのかもしれない。どうしても選手を信用して送り出してしまう。その優しさが勝負ごとでは邪魔になるのだ。

 「空を自由に飛びたいな」と思っても、「そうだ、お前ならきっと飛べる!」と背中を押せば転落事故が起きる。そうではなく、「でも飛べないよね」を前提とし、いかに怪我せず飛行の代替手段を模索できるか。たぶん采配ってそういうもの。

 与田監督が優しさを捨て、現実路線に振り切ったとき、ドラゴンズの怒涛の快進撃が始まるに違いない。たぶん。

 

【参考資料】

『原辰徳氏、男が惚れた男・星野仙一氏の「メリハリを尊敬」』(サンスポ.com)