ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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期待値ゼロからの逆襲

○2-1DeNA(5回戦)

 「予告先発・松葉貴大」

 ただでさえ悪い流れの中で、4連敗を覚悟した人も多いのではないだろうか。かく言う私もその一人だ。相手は前回打てそうで打てなかった濱口遥人で、こっちは松葉。松葉には悪いが、ポジティブになれと言う方が無茶な話である。

 松葉は昨年、シーズン途中に先発候補としてオリックスからやってきたものの、一軍での登板はわずか1試合。今日と同じDeNA戦で、3回もたずにノックアウトを食らった。今季もキャンプから読谷組に振り分けられ、開幕も当たり前のように二軍で迎えた。しかし雨天中止の多い今年のファームでは登板機会にも恵まれず、6月24日、7月2日に先発したのが数少ない実戦の場だった。

 ちなみにそれぞれ6回5失点、7回3失点と芳しい結果は残せなかったが、柳裕也の離脱という有事発生により急遽、役目がまわってきた格好だ。

 はっきり言って期待値は高くない。というかゼロに等しい。なんとか先に主導権を握って5回まで投げてくれれば……。試合前まではつい後ろ向きなことばかりが口をついて出たが、いざ始まってみれば意外や意外。技巧派サウスポーの生命線ともいえる制球力を活かした丁寧な投球で小気味よくDeNA打線を翻弄し、気づけばノルマの5回を無失点で切り抜けていた。

 このところ先発が早いイニングで崩れるパターンが続いていたので、松葉のテンポの良さは新鮮に感じた。それもそのはず、ここまでに要した球数は70球。実は今シーズン、5回まで投げた先発投手のべ15人のうち、5回終了時点でのイニング平均投球数が14球以下だったのは7月1日の山本拓実(73球/14.6球)と10日の大野雄大(72球/14.4球)の2人だけしかいない。それ以外は1イニングを終わらせるのに平均15球以上を要しているのだから、テンポも悪いわけだ。

 なによりもソト、宮崎敏郎といった怖い打者が揃う打線を相手に無四球だったのが良い。「プレッシャーを感じて当然なんだ。要はそこから逃げるか、向かっていくか、だよ」とは、故・星野仙一が生前のあるインタビューで語った言葉だ。

 今年のドラゴンズ投手陣は、逃げ腰が目立つ。それで四球をだして塁を埋め、一気に失点する。そんなパターンを、まだ開幕から1ヶ月も経っていないのに何度見てきたことか。だから今日の松葉を見て、やっぱり投球はストライクゾーンに投げるのが基本なんだな、と。当たり前のことにあらためて気付かされた。

 666日も勝てなかったのが信じられないような投球をみせた松葉が、窮地のドラゴンズを救ってくれた。

 

石垣の集中力たるや

 

 打線も3回に2点を取ったきり、チャンスは作るものの得点に結びつかない見慣れた展開。もし今日の先発が松葉でなければ序盤でひっくり返されていてもおかしくはなかった。

 絶体絶命の場面を迎えたのは8回表。今日まで連続無失点を続けるリリーフエースの福敬登がどうも精彩を欠き、1死満塁のピンチを背負う。調子の悪いロペスこそボール球を振ってくれて助かったが、続く関門は打率3割7分を誇る宮崎。

 カウント2-1からの4球目、甘く入ったスライダーを宮崎が逃すはずもない。痛烈なライナーが三遊間を襲う。誰もが同点、さらに逆転を覚悟した次の瞬間、なんとこの回からサード守備に入っていた石垣雅海が横っ飛びでこの打球をキャッチしたのである。九死に一生を得た福が、めずらしく派手なガッツポーズで喜びを表現する。

 「代わったところに打球が飛ぶ」とは野球七不思議のうちの有名な一つだが、あれほどの打球が飛んでくることもそうはあるまい。ただでさえ途中交代の守備固めは試合勘をつかむのが難しいといわれるなかで、まだ経験も浅い石垣が、ここしかない場面、ここしかないというタイミングでジャンプし、見事にグラブに収めたのだからその集中力たるや大変なものだ。これで明日のサードスタメン出場は決まったようなものか。

 柳の離脱でチャンスをつかんだ松葉、高橋周平の離脱でチャンスをつかんだ石垣。ファームで牙を研いできた投打の昇格組の活躍により、なんとかデッドライン際で踏みとどまった。

【参考資料】

『【追悼】闘将・星野仙一 山際淳司が描いた素顔』(cakes)