ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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石川駿の日

●2-5DeNA(4回戦)

 3年振りスタメンの石川駿は初回、1死一、三塁のピンチで佐野恵太のライナー性の打球を倒れ込むようにして好捕すると、流れるようにセカンドへ送球し、ダプルプレーを完成させた。

 さらに先頭打者で迎えた2回には初球を叩いてヒットで出塁。続く京田陽太がゲッツーに倒れ、惜しくも得点には結びつかなかったが、「今日は石川駿の日になるぞ!」と確信するには十分な序盤の活躍だった。

 その期待感が暗転したのが4回表のことだった。同点に追いつかれ、なおも1死満塁という場面。こちらも久々にスタメン出場の倉本寿彦が放った力ない打球がショートに転がり、まずは京田がセカンドに転送してフォースアウト。間一髪ファーストは間に合わずダプルプレーにこそならなかったが、元々は無死から始まった満塁のピンチを併殺崩れの1点に凌げればまずまずだ。

 誰もがそうソロバンを弾いた次の瞬間、ラミレス監督がリクエストを要求しに出てきた。いやいやセカンドは余裕でアウトでしたよ、とあざ笑ったのも束の間。どうやら争点はそこではなく、石川駿がベースを踏み損ねたのをロペスが目撃していたのだと理解した途端、血の気がひいた。だって、よほど確信がなければ序盤からリクエスト権を使うようなマネはしないだろうから。

 案の定、リプレイ映像にはベースを踏まずに捕球する石川駿の姿がくっきりと映っていた。これじゃ言い逃れはできない。2死二、三塁になるはずが、失点したうえで1死満塁では山本拓実としてはたまらない。結局この回に喫した5点で勝負あり。

 戦意を喪失したドラゴンズナインは熟練のライン工のように淡々とアウトを重ね、つい先日派手にノックアウトを食らったばかり、中3日での登板となった大貫晋一に8回89球と気持ちよく抑え込まれたのだった。

 

三十路の悲哀に泣いた

 

 結果的には逆の意味で「石川駿の日」になってしまったが、よりによって3年振りに起用した選手が10年に一度あるかないかの大ポカをやらかしてしまうあたり、今のドラゴンズは本当にやることなすこと裏目に出る。

 フォースアウトには余裕のタイミングだったにもかかわらず、なぜ石川駿はベースを踏み損ねたのか。いわゆる「みなしアウト」がリクエスト制度導入を機に厳格化されたのを知らなかったのか、あるいは敬虔なクリスチャンで、ベースに付いた泥がキリストの模様にでも見えたのか。

 石川駿としても、明大の1年先輩である阿部寿樹の不振を受けて抜擢されたチャンスだ。うまく運べば手薄なセカンドにあって一気にレギュラー奪取まであり得たのだが、蓋を開けてみればとんでもない珍プレーで評価を下げる結果となってしまった。

 これが石川昂弥や根尾昂なら「経験、経験!」と前を向くことができるが、もうプロ6年目の30歳だ。石川駿だけではない。2番でスタメン出場するも3タコ(1犠打)に終わった遠藤一星も、石川駿と同期の31歳。本来チームの柱となるべき30オーバーの選手達がまるで若手のような立ち位置でチャンスをもらい、軒並み期待を裏切っているのがいかにもチーム事情の苦しさを物語っている。

 あっという間に借金はデッドラインとも言える「5」に達した。首脳陣も早晩、育成重視の起用法に舵を切るだろう。そうなれば不甲斐ない中堅どころは真っ先に厳しい立場に置かれることになる。

 27〜33歳くらいの年齢を指す“アラサー”という言葉があるが、実際には20代と30代とではまったく周囲からの扱いは異なるものだ。29歳ならなんとなく許してもらえることでも、三十路になった途端に看過されなくなるのは、たぶんオフィスでもグラウンドでも同じだと思う。

 30代はとにかくごまかしが効かない。失敗すると容赦なく叩かれるし、「30にもなってオレは何やってんだか……」と情けなさと恥ずかしさに打ちひしがれるのも、20代にはない感覚だろう。ベース踏み損ねを指摘され、リクエスト結果を待っている最中の30歳・石川駿もきっとそんな気持ちだったのではないだろうか。

 あの約3分間。平静を装いつつも引きつった表情の石川駿には三十路の悲哀が詰まっていて、試合の結果よりそっちのが泣けた。