ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

1手先を読むということ

●6-8ヤクルト(6回戦)

 「将棋界のレジェンド羽生善治はいったい何手先まで読んで将棋を指しているのか?」

 数年前、あるバラエティ番組で羽生本人がこの質問に答える場面を見た。十手先、百手先まで読んでいるかのような羽生の天眼には常々驚かされるが、実際にはどれくらい先まで見通しているのか。実に興味深い疑問に対して、羽生の回答はシンプルかつ奥深いものだった。

 「5手先まで、各3パターンです」

 いつもの涼しい表情で答える羽生。いやいや、5手先、各3パターンって、それだけでいったい何百通りの予測があの寝癖の奥に広がっているんだ。やっぱり将棋星人が地球に侵略しに来たとき、人類代表で出陣すべきは藤井聡太でも渡辺明でもなく羽生だな。

 そんなことを、気が遠くなりそうな9回表のシーンを目の当たりにしながら思い出したのである。逆転した直後の悪夢。毎日、ありとあらゆるパターンで負けてしまうドラゴンズに足りないのは、5手先……いや、せめて1手先を読む工夫ではないだろうか。

 

山田の申告敬遠には疑問符が付く

 

 今となっては、青木宣親の打球はいっそホームランになってくれた方が良かったのかもしれない。1死一、二塁となり、打席には山田哲人。だが追い込んでから岡田俊哉が投じた4球目はホームベースの遥か手前で弾む暴投となり、ランナーはそれぞれ進塁して二、三塁。一打逆転の大ピンチとなる。

 ここでベンチが下した判断は「申告敬遠」。満塁として山崎晃太朗を迎え、内野と外野の守備体系は共に前進守備。間を抜かれればたちまち大量点を失う博打シフトだ。きっと前進守備嫌いの権藤博氏が解説席にいたら猛烈に苦言を呈していたことだろう。

 果たして山崎の打球はものの見事に京田陽太の頭上を抜け、逆転を許すことになった。何をやっても裏目に出る采配。とにかく全てが噛み合わなかったこの3連戦を象徴するような場面に思えた。

 しかし、この悲劇は本当に防げなかったのだろうか。もちろん結果論の範疇は超えないが、山田の敬遠が妥当だったのかについてはいささか疑問符が付く。Jスポーツ解説の小松辰雄氏もしきりに「追い込んでるんですけどねえ」と口にしていたように、カウントは2-2だ。いくら山田とて簡単に打てる状況ではない。

 一昨日と同じように満塁のピンチを背負い、苦境に陥った岡田は山崎に対してボール球を2つ続けてしまう。押し出しを嫌がる投手が安易にストライクを取りに来るであろうことは、誰にだって分かる。もうこの時点で勝負は付いたようなものだった。

 

急場凌ぎの神頼み采配

 

 結果的に岡田を追い詰める形となった山田への申告敬遠策。問題は、首脳陣がどこまで先を読んでこの采配を振るったのか、だ。一打逆転の場面での山田は怖い。確かに怖い。だから2ストライクにもかかわらず敬遠したのだとすれば、あまりにも安直だと言わざるを得ない。この場面、少し考えるだけで幾つかの未来が想定できる。

 ①満塁でボール先行になれば窮地に追い込まれる②山崎に押し出しを許せば、さらに満塁の状況で村上宗隆を迎えることになる③山崎にヒットを打たれれば逆転どころか更に点差が開く可能性が高い

 結局①の状況が現実のものとなり、②を怖がって③の結果を招いたわけだが、首脳陣はこれらの想定をどこまで見通していたのか。どうも一手先のことには思いを巡らせず、その場その場を凌ぐのに窮しているような印象を今季の采配から感じるのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない。その際たるものが一昨日のアレであったり、枠を一個余らせたまま放置するという失態なのだから。

 相手もバットを持っている以上、最善手を取ったところで必ずしも好結果が出るとは限らない。ただ、必要以上に目先の状況に怯えるあまり傷口を広げるようではウマい采配とは言えないだろう。満塁での前進守備という極限状態を作ってまで勝ち切ることを選択した判断といえば聞こえはいいが、実態は急場凌ぎの神頼み采配に過ぎない。

 羽生九段のように5手先まで各3パターンを読めとは言わないが、せめて1手先に起こり得るリスクくらいは見通してくれよと。最後の最後まで首脳陣が振るう不可思議な采配に嘆きが止まらない3連戦だった。与田監督、将棋勉強しましょう、将棋。