ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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「勝てる投手」はダテじゃない

○4-2阪神(3回戦)

 「本当にこれがルーキーなのか……?」

 初回の岡野祐一郎の投球を見て、私は思わず経歴詐称を疑ってしまった。選手名鑑に目を落としても、やはり最終所属はカイロ大学…….ではなく東芝で間違いない。かつてのエース小川健太郎がそうであったように、出戻りか何かではないのか? そう思いたくもなるような玄人好みの投球術。その一部始終を振り返ろう。

 どんなベテラン投手でも難しいと言う立ち上がり。岡野は簡単に2死を奪いながら、制球を乱して満塁のピンチを背負ってしまう。打席には今日から6番に繰り上がった梅野隆太郎。言うまでもなく現状の阪神では最も怖い打者である。

 昨季はキャリアハイの成績を残し、2年連続ゴールデングラブ賞に選出。年俸も大台1億に乗り、セ・リーグを代表する捕手になりつつあるのは誰が見ても明らかなのだが、どういうわけか開幕当初は原口文仁、坂本誠志郎と併用で使われ、打順も昨日までは8番に入っていた。

 矢野監督の考えは分からないが、中盤まで両軍ともに0行進が続いた一昨日の試合に関しては、梅野がもう少し上の打順を打っていれば柳裕也もどこかで掴まり、展開も大きく変わっていた気がしてならない。実力的にはクリーンアップを打っていてもおかしくないと思うのだが、せいぜい6番に留まっているのがつくづく不思議である。

 

「勝てる投手」はダテじゃない

 

 なんて敵の心配をしている場合ではない。話を岡野に戻すと、初回から最大のピンチを背負い、しかも打席には梅野である。今季7安打中5本が長打という怖い梅野を前にして腰が引けてしまうのではないか? そんな心配をよそに、このふてぶてしいオールドルーキーは捕手のミットを目がけて淡々と投げ込む。前の打者までは制球が定まらなかったが、ここではまず内角からえぐるようなスライダーでストライクを取ると、2球目にはよりドロンとしたカーブのようなスライダーで詰まらせ、難を脱した。

 並のルーキーなら投げ急いで甘く入ったところを痛打されるか、あるいはまったくストライクが入らずに自滅するのがお決まりのパターンだが、さすがは強豪東芝で「勝てる投手」の異名を取った男である。ピンチになっても動じずーー、いや、むしろピンチだからこそ落ち着いて自分優位のカウントを作ることに努めたのが、岡野の勝因だといえよう。

 何しろ満塁という状況。もし初球が外れていれば2球目はストライク欲しさに置きにいってしまいがちだが、まず最初にストライクを取っておくことで2球目の選択肢を増やせるというわけだ。このあたりの落ち着きはさすがの社会人出身者。オトナの余裕を感じさせてくれた。

 3回に2点を失い、続いて訪れたピンチは5回。女房役の加藤匠馬の悪送球などで2死二、三塁と一打逆転のシチュエーションとなったが、ここでも岡野の投球術が冴え渡る。マルテに対してツーナッシングと追い込んでからストレートが3球外れてフルカウント。しかし7球目、ここで初回に梅野を打ち取ったのと同じ軌道のスライダーでゴロを打たせてピンチを凌いだのだ。

 実は今日、岡野の操る変化球のなかで最も安定していたのは鋭く曲がるカットボールだった。ストレートとカットボールを軸にカウントを作り、勝負どころになると急に緩いスライダーやフォークが来るから、打者はどうしてもタイミングが合わずに当てただけのゴロになってしまう。5失点を喫した前回のDeNA戦では打たれた8安打中7本がストレートとカットボール。その反省を踏まえて投球の組み立てを変えたのだとしたら、やはり「勝てる投手」の異名はダテではない。

 まるでプロ15年目、通算90勝くらいしていそうな老練とした投球術を見せてくれた岡野が、記念すべきプロ1勝目を飾った。

 

3連勝は嬉しいけど……

 

 ただ、圧倒したというよりは互角の戦いの中で阪神がミスで自滅したというニュアンスが強い3試合だったのは否めない。守備のエラーはもちろんのこと、得点圏で早いカウントから簡単に打ち上げてくれたりと、こちらとしては「助かった」と思うことも多かった。

 残念ながら明日からの巨人戦はそう甘くはないだろう。おそらくこの3連戦とは比べ物にならないほどのストレスとプレッシャーを感じながらの戦いになるはずだ。とりあえず1勝。3タテさえ食らわなければ及第点。とは言いつつも、あわよくばを期待するのがファン心理というもの。

 その大事な初戦を託すのは……大野雄大。よし、試合始まる前に胃薬買っとこ。